アニメ『オネアミスの翼』がBS放送。庵野秀明、貞本義行ら若き才能が爆発
「ガイナックス」設立メンバーの想いを載せた宇宙ロケット

圧巻なのは、やはりシロツグが搭乗する宇宙ロケットの発射シーンです。このクライマックスとなるロケットの打ち上げシーンの原画を手掛けたのが、庵野秀明氏です。飛び立つロケットから降り注ぐ氷片の細かな描写など、凄まじいまでの情熱の注ぎ方です。手描きアニメならではの迫力を感じさせます。
もうひとつの地球という設定も、効果的でした。現実世界を舞台に有人ロケットを発射させようとすると、ソ連のユーリイ・ガガーリンが残した逸話、もしくは米国のマーキュリー計画などを模したものになってしまいます。でも、『オネアミスの翼』のスタッフは異世界の地球の物語にすることで、自分たちだけのオリジナルのロケットを飛ばすことに成功したのです。
物語序盤はだらしなかったシロツグですが、宇宙パイロットとしての自覚が芽生え、パリッとした大人へと変わっていきます。ロケット発射の際のトラブルには、的確な判断で現場をまとめてみせます。シロツグの内面の変化は、「ガイナックス」設立メンバーとなったスタッフ一堂の心境とシンクロするものがあったのではないでしょうか。
多くの宇宙飛行士が感じる「神の存在」
シロツグが想いを寄せる少女・リイクニは家庭に恵まれず、神に祈ることを心の支えにしています。幼い女の子・マナの世話もしている健気なリイクニですが、神への祈りだけでは食べていけないというシビアな一面も描かれています。リイクニがありがちな清純派ヒロインではない点も、従来のSFアニメとは異なるものを目指していたことがうかがえます。
実在する宇宙飛行士たちの多くは、宇宙空間を体験したことで宗教観が変わったと語っています。肉眼で見る地球の美しさ、宇宙の荘厳さに、神の存在を信じるようになるそうです。劇中のシロツグも科学の粋を集めた宇宙ロケットに乗って大気圏を離脱することで、それまでになく神を身近に感じるようになります。
地上で暮らすリイクニが信じる神と、シロツグが祈りを捧げる神は、果たして同じ神なのかはどうかは分かりません。でも、衛星軌道上から地球を見つめるシロツグは、人類の未来に福音が訪れることを祈らずにはいられません。大人になって改めて『オネアミスの翼』を見直すと、以前とは違った感慨が生まれてくるのではないでしょうか。
(長野辰次)



