マグミクス | manga * anime * game

楳図かずおの恐怖マンガ集『こわい本』 美少女が【蛇女】に変貌する不条理さ

笑いと恐怖、美しさと醜さが反転する楳図ワールド

今年2021年で85歳の誕生日を迎える、楳図かずお先生 (C)楳図かずお
今年2021年で85歳の誕生日を迎える、楳図かずお先生 (C)楳図かずお

 美しく、優しい養母の正体は「へび女」でした。毎年のように女の子がこの屋敷にもらわれては、冬が訪れる前にみんな姿を消していました。衝撃的な展開を見せる『口が耳までさける時』ですが、牧歌的なおかしみもブレンドされているのは楳図作品ならです。

 部屋の片隅にさくらが隠れていることを知らずに、新しい「お母さま」はばあやが捕まえてきたカエルを生きたまま「ゴクリ」と丸呑みします。部屋のなかをカエルたちが逃げ回るのを「お母さま」が追いかける姿は、どこかユーモラスさを感じさせます。

 楳図先生の妹という設定の架空のキャラクター・楳図魔子(もちろん美少女!)が語り部として登場する、『うろこの顔』も強烈です。ヒロインである超美少女・陽子の顔の皮がはがれ、なかからうろこに覆われた顔が現われるシーンは、息が止まるほどの恐ろしさです。怖くて、夜中に鏡を見ることができなくなってしまいます。

 美少女の手首から顔へと次第にうろこが増え、「へび女」となっていく様子がディテールたっぷりに描き込まれています。へび神の祟りなのか、それとも登場人物たちみんなが集団幻覚に陥ったのか。美少女が「へび女」に変身してしまう理由は、明らかにされません。とても不条理であり、サイコサスペンス的な面白さも感じさせます。

 あまりの「へび女」の恐ろしさに、物語の語り部であるはずの楳図魔子はクライマックス寸前で現場から逃走してしまいます。魔子のこの逃げ足の速さには、思わず吹き出してしまいます。恐怖と笑い、美しさと醜さ。真逆な価値のものが、とてもフラットに描かれているのも楳図ワールドの特徴でしょう。

もうすぐ85歳になる楳図かずお先生

 もうひとつの収録作『蛇娘と白髪魔』は、楳図先生のいくつかの初期作品をベースにした実写映画『蛇娘と白髪魔』(1968年)を、楳図先生自身がコミカライズしたものです。屋根裏に隠れて暮らす孤独な少女・タマミと施設で育った美少女・小百合との女の子同士のナイーブな葛藤劇となっています。

 映画を撮った湯浅憲明監督は、『大怪獣ガメラ』(1965年)を大ヒットさせ、大場久美子さん主演の『コメットさん』(TBS系)や『ウルトラマン80』(TBS系)なども手掛けた特撮ドラマ界の巨匠です。実写版『蛇娘と白髪魔』には若かりし日の楳図先生がカメオ出演もしているので、楳図ファンなら見ておきたい名作映画です。

 楳図先生は1936年9月生まれで、もうすぐ85歳を迎えます。26年ぶりの新作はもちろん楽しみですが、楳図先生がスタイルを確立させた初期恐怖マンガ集もぜひおさらいしておきたいところです。

 まだまだ厳しい残暑が続きそうですが、楳図先生の背筋が凍る恐怖マンガを読むことで、この残暑を乗り切りたいと思います。

(長野辰次)

【画像】『こわい本』は全10冊、2022年にかけて順次刊行予定(4枚)

画像ギャラリー

1 2