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アニメは子どもが観るもの―『ガンダム』が大人にも評価されたワケ 常識覆した「敵」の設定

なぜ『機動戦士ガンダム』が、大人にも評価され続けてきたのか? その理由を「敵」に注目して解説します。

従来のアニメ作品と何が違った?

「機動戦士ガンダムDVD-BOX 1」ビジュアル(バンダイビジュアル)
「機動戦士ガンダムDVD-BOX 1」ビジュアル(バンダイビジュアル)

『機動戦士ガンダム』の「敵・悪役」と言われたら、あなたはなんと答えるでしょうか。「ジオン公国」それとも「シャア」でしょうか。もしかしたらちょっとひねって「地球連邦」と答える方もいるのかもしれません。

 どんな作品にもその時代や思想文化などが反映されるものですが、特に「ヒーローもの」に無くてはならない「敵」に目を転じてみると、そこには興味深い流れがあります。

 昭和の半ばから始まった日本のTVアニメーション番組の「敵」の多くは、例えば宇宙から攻めてくる宇宙人や地球上にかつて栄え、人知れず再びの支配をねらっている超文明人。そしてその彼らが生み出した怪物やロボットなどが大半でした。一方、文化の根底に「神」という存在があるアメリカの「スーパーマン」などは、個人的な私利私欲の「悪人」であることが多いように思います。

 もちろん、例外はたくさんありますが、この日本の敵設定の裏には、ひとつの理由があるようです。

 私が所属していた昭和時代のサンライズで、番組の企画を作っていた当時の人たちは、年齢的に第二次世界大戦を直接、もしくはまだ敗戦の残り火がくすぶっているような時代に幼少期を過ごしていた人たちです。そんな彼らにとっての驚異は、まさに自分たちの国土を脅かす敵国の兵器や兵士たちでした。実際にその「怖さ」を体験したかどうかは、暮らしていた場所や年齢にもよるでしょう。それでも彼らの多くは、敵とは、自分たちの土地や暮らしを蹂躙する恐ろしいものという感覚を持っていたはずです。

 私たちの上司であった企画部長は、幼い頃にアメリカ軍戦闘機の機銃掃射から走って逃げた、という経験談を口癖のように話していました。こうした経験は、実弾が飛び交うことの恐ろしさがそのまま敵の存在イメージの根底にあったのだろうと推測します。だからこそ「敵」は自分たちよりも進んだ科学や技術力を持った相手であり、「見知らぬ文明人(集団)」だったのでしょう。

 そうした時代に登場したのが1979年の『機動戦士ガンダム』です。敵は同じ人類であり、互いに戦争を正当化する理由を持っているのだという『ガンダム』の物語構造は、当時「リアルだ」とされ、今でも革新的だったと言われる部分です。

 人間の理屈が通用しない「人外の相手」ではなく、戦場を離れれば親も子も恋人もいる、ごく当たり前の人間同士の戦い。それを如実にわかりやすく描いたことは、当時『ガンダム』がハイティーンも含んだ「大人」にも受け入れられた理由のひとつであることは確かです。ここには、間違いなく、戦争というものを冷静に分析できるようになった「世代感」や「時代」というものが関わっています。

 実はその兆しは『ガンダム』の2年前に制作された同じ富野由悠季監督の『無敵超人ザンボット3』や監督処女作『海のトリトン』ですでに見られていることが、往年のアニメファンの間では知られています。これらに共通する、戦争とは何か、人はなぜ殺し合うのか、というテーマは、富野監督が担当した作品の根底には常に流れていますし、これが二次大戦を肌感覚で知っている世代の制作者たちが立ち向かってきた課題とも言えるでしょう。

 そうした作品群のなかで、特に『ガンダム』が取り上げられるのには複合的な理由がありますが、特に『ザンボット』で文芸としてタッグを組んだ脚本家の星山博之さんの存在は大きいでしょう。常に人々を暖かな視点でとらえて描き続けた星山さんは、惜しくも2007年に早世されましたが、手掛けられた数々の作品を見れば、きっとその意図がお分かりになるはずです。

「立場が変われば、敵味方も正義も逆になる」

 これは、当時、子供向き特撮ヒーロー番組を企画した著名なプロデューサーも言っていたことで、少し時代はさかのぼりますが、例えばあの『仮面ライダー』でも「正義のために戦う」ではなく「人間の自由のために戦う」と言っているのです(このセリフそのものは変化して行きますが)。

 日本のロボットアニメーションが世界的にも高い評価を受け続けてきた理由のひとつには、第二次世界大戦をはじめとする、戦争の辛さを知る人々が、戦うことの愚かさを第三者目線で描くことで、若い世代にも伝えようとしてきた彼らの使命感と努力があったことも忘れずにいたいと思うのです。

(風間洋(河原よしえ))

【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規所属にて『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。

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