『ガンダム』「TVでは放送しづらい」ララァ・スンの秘められた過去
「カバス」を脱走するララァ

シャアの手を取らなかったララァですが「カバス」での生活に満足していたわけではありません。ひとりベットで目覚めたある日の朝、突如として脱走を試みますが失敗、連れ戻されそうになります。
しかしその瞬間、赤いモビルスーツが現れて追手を蹴散らしました。シャアはコクピットから金塊を詰めたトランクを投げ渡し、ララァの身柄を贖(あがな)います。全体的にテレビでは放送しづらい過去ですね。
ただし富野監督の作品とはいえ、小説版が「正史」かどうかは難しいところです。なにしろ富野監督による小説版『ガンダム』ではアムロが戦死しています。
小説版『ガンダム』3巻のあとがきにおいて「ビジュアルの仕事に対応するために、自分にはこうしかできなかった」と述べていることから、小説版が富野監督の初期構想であることが分かります。
しかし一切の制約なくアニメが制作され、アムロが戦死するシナリオが採用されていたら『ガンダム』はここまで巨大なシリーズにならなかったに違いありません。
●ルーレットの出目を予知させられるララァ
2001年から2011年まで安彦良和先生により連載された『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』では、ララァの素性が大きく変更されています。ララァはディリーの擁護院ではなく、ムンバイの大家族の元に生まれました。
しかしもって生まれた予知能力が知れ渡ったのか、悪人に連れ去られ、ジャブローのカジノでルーレットの出目を予知させられていました。その様子を目にしたシャアはララァを匿うことに。
その後、商売道具を取られた悪人がララァを奪い返しにやってくるのですが、シャアはスコップを武器に生身の格闘で撃退。この時、ララァの危険予知により、見えるはずのない背後からの攻撃に気づいてかわせた、という体験が後のニュータイプ能力覚醒へとつながります。
『密会』とは違ってこの時のふたりは若く、ララァは13歳、シャアは16歳です。
●ララァ「永遠にあなたたちの間にいたいの」
ララァ・スンという女性はアムロとシャアにとって、まさにファムファタル(運命の女)です。ララァとの出会いと別れは、ふたりの心に深い傷を刻みました。その傷は14年が過ぎても全く癒えておらず、29歳になってもアムロはララァの夢を見てうなされ、34歳のシャアはネオ・ジオンの総帥となって他の女性とベットを共にしているときも「ララァ・スン」と寝言を言う(ギュネイ・ガス談)とのこと。
もしもアムロがララァを手にかけていなかったら、シャアとの関係はどうなっていたのでしょうか。歴史のifに思いを巡らせます。
(レトロ@長谷部 耕平)