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【地上波初放送】『この世界の片隅に』で密かに話題呼んだ「傘問答」の意味とは

戦前ののどかな広島で生まれ育った女性・すずを主人公にした長編アニメ『この世界の片隅に』が、NHK総合で地上波初放映されます。戦時中の市井の人々の日常生活や世相をリアルに描き、大ヒットした作品ですが、現代から見ると「???」となりそうな、『この世界の片隅に』前半の名シーンをひも解いていきます。

「傘」は祖母から教わった大切な嫁入り道具

NHK総合で8月3日(土)21時から放送される、『この世界の片隅に』(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
NHK総合で8月3日(土)21時から放送される、『この世界の片隅に』(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

 2019年8月3日(土)夜21時から、のんが声優初主演をつとめた劇場アニメ『この世界の片隅に』がNHK総合で地上波初オンエアされます。『夕凪の街 桜の国』でも知られる広島市出身の漫画家・こうの史代の同名コミックを、片渕須直監督が6年の歳月を費やして完成させた大変な労作です。

 2016年11月に単館系での上映が始まると口コミで人気を呼び、興収27億円の大ヒット&ロングラン作品となりました。2018年には同じ原作で、松本穂香&松坂桃李主演のTVドラマが放送されたことも記憶に新しいところです。

 戦前、そして戦時中の広島市や軍港のあった呉市の街並みや人々の暮らしがディテールたっぷりにアニメーション化されていることに、まず驚きます。片渕監督が何度も広島に通い続け、しっかりと時代考証を重ねた賜物です。広島市のランドマークだった広島県産業奨励館(原爆ドーム)の在りし日の様子も詳細に再現され、まるで戦前&戦時中にタイムスリップしたかのような気分になってきます。

 劇場での公開時、また連続ドラマ版の放送時に一部で話題を集めたのが、広島市から呉市へと嫁入りした主人公・すず(声:のん)が夫となる周作(声:細谷佳正)と交わす「傘問答」でした。

 1944(昭和19)年、18歳になるすずに縁談話が持ち上がり、祖母は嫁入りの際には新しい傘を持っていくようすずに教えます。戦時下ながら、慎ましい祝言が挙げられました。そして、ついに迎えた新婚初夜。お風呂から上がったすずは周作から「傘は持ってきとるかい?」と尋ねられ、「はい、新なのを一本持ってきました」と答えてしずしずと新しい傘を差し出すのです。

 これは民俗学上では「柿の木問答」と呼ばれているものです。『日本の民俗 広島』(藤井昭著、第一法規)を開くと、以下のようなやりとりが新婚夫婦の間で交われていたことが紹介されています。

婿「あんたがたの家には、柿の木があるか」
嫁「はぁ、ええのがあります」
婿「柿は、ようなるか」
嫁「はぁ、いつもようなります」
婿「これから登って、もいでくうてもよいかの」
嫁「はい、どうぞ」

 かつての日本は見合い結婚が多く、面識もほとんどないまま初夜を迎えた新婚夫婦は、型通りの会話を儀礼的に交わすことでベッドインへと進んだわけです。地域によって、柿の木や傘など異なるバージョンがあったようです。そのことを知ると、「柿の実をもぐ」「傘をさす」という何でもない言葉がとても意味深に思えてきます。

【画像】『この世界の片隅に』の片渕監督、高畑勲氏を語る(6枚)

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