『キン肉マン』完璧超人始祖はなぜ「神」の候補に選ばれない? スグルたちが戦う理由
マンガ『キン肉マン』最新シリーズでは、「空いた神の座を超人で埋めようとする」神々の思惑が開示されました。キン肉マンたちよりも強いとされる完璧超人始祖は、なぜ神の候補にならないのでしょうか。
ジャスティスマンらは「神」扱いされていたのに

1979年から集英社「週刊少年ジャンプ」にて連載が開始されたマンガ『キン肉マン』は、続編『キン肉マンII世』の後に連載が再開され、大好評を博しています。
その最新シリーズでは、超人の殲滅(せんめつ)を企む「調和の神」とこれに賛同する神々が、神をやめて「下天」、すなわち「超神」となって地上に降り立ちます。これに対し「天界の空いた神の座を埋めるために」超人を作った存在である「超人閻魔」ことザ・マンは、正義超人、悪魔超人、完璧超人の合同による「真の男たち(リアル・ディールズ)」を差し向け、戦いとなりました。
ここで不思議なのは、ザ・マンが自身を含む完璧超人始祖や完璧超人ネメシスではなく、「この時代の超人」に超人界の未来を委ねたことです。
特に完璧超人始祖は「神々が超人を殲滅しようとした時に、それに対抗するために」ザ・マンが鍛えた弟子たちです。その実力は圧倒的なもので、キン肉マンたち現代超人の精鋭でも、実力で完璧超人始祖を上回るという描写はなされませんでした。
実際、例えば始祖のひとりであるジャスティスマンは、キン肉星に伝わる「天上兄弟ゲンカ」の神話で「裁きの神」と呼ばれているなど、神と変わらない実力者です。「オメガ・ケンタウリの六鎗客(ろくそうかく)編」では、実力者のキン肉アタルらを圧倒し、ラスボスと考えられていた大魔王サタンを一蹴する無慈悲なまでの実力を示しました。
そのジャスティスマンよりも強いと思われる悪魔将軍など、完璧超人始祖は実力者揃いであり、下天した超神たちと戦ったとしても、恐らくその大半に勝利すると思われます(悪魔将軍やジャスティスマンに勝てそうな超神は、ザ・ワンくらいではないでしょうか)。
それにも関わらず、ザ・マンは始祖を動かそうとはしませんでした。ジャスティスマンも、大魔王サタンがオメガマン・アリステラやキン肉アタルを直接殺害しようとしたことを止めただけで、介入する気はない描写がなされていました。始祖ではないネメシスも、試合内容としてはキン肉マンを上回る実力者として描かれていますが、参戦を止められています。
調和の神らが「超人を殲滅しようとする理由」は、「宇宙に存在できるパワーの量が決まっており、増え続ける超人が世界を歪めている」からです。その点において完璧超人始祖は、悪魔将軍の1500万パワーをはじめ、1億パワーをほこる神々のそれより圧倒的に低いですから、世界を歪めたりもしなかったと考えられます。

ではなぜザ・マンは、キン肉マンら「真の男たち」に戦わせたのでしょう。その理由は、「火事場のクソ力に期待したから」ではないでしょうか。
「火事場のクソ力」の源は「友情により、仲間から借り受けるパワー」です。そして、大半が始祖よりも低い超人強度の持ち主である「真の男たち」が「火事場のクソ力で超神に勝利」することで、ザ・ワンに超人の価値を認めさせその殲滅の意志を変える、というのがザ・マンの思惑だったのでしょう。
「真の男たち」の超神への勝利は、ギリギリのものであり、ザ・マンは「賭けに勝利した」ということになります。「完璧超人始祖が超神を打倒しても、世界の有り方は何も変わらず、増え続ける超人を間引きしていく未来になるだけなら、得策ではない」と考え、ギャンブルに打って出たところに、ザ・マンの、キン肉マンたちへの信頼がうかがえます。
主人公が属する集団である「真の男たち」よりも、より強い完璧超人始祖がいるのに、彼らを戦わせずに主人公たちが戦うというのは、物語が不自然になりがちです。しかし「火事場のクソ力」の設定解釈によって、無理のないストーリーラインとなっているところが、「キン肉マンは今が全盛期」といわれる所以ではないでしょうか。
今度こそ真のラスボスと思われる「刻の神」の登場で、時間超人も登場するなか、どんな物語が繰り広げられていくのか、楽しみでなりません。
(安藤昌季)