宮崎駿監督のアカデミー賞受賞なるか? 『君たちはどう生きるか』で弔った「大切な人」
大伯父の正体は、宮崎駿監督にとっての大恩人

ミステリアスさに包まれた『君たちはどう生きるか』のなかでも、ひときわ神秘的なのが塔の設計者である大伯父です。異世界探検の最後に現れた大伯父が投げ掛ける問いに、眞人は答えなくてはいけません。眞人にとって、正念場となるクライマックスです。
大伯父の正体は、いろんな推測が飛び交いましたが、『ジブリと宮崎駿の2399日』では大伯父=高畑勲監督だと解いています。寂しい少年期を送り、内向的な性格になった宮崎監督でしたが、東映動画(現在の東映アニメーション)に入社し、5歳年上の高畑監督と出会い、宮崎監督は大きく変わったと言われています。
高畑監督の初監督作『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968年)以降、宮崎監督は高畑監督に褒めてもらいたい一心で、『アルプスの少女ハイジ』『母をたずねて三千里』(フジテレビ系)などの高畑作品を懸命にサポートし続けました。
宮崎監督の監督デビュー作となった『未来少年コナン』(NHK総合)では、スランプ状態に陥っていた宮崎監督の窮地を、高畑監督は絵コンテを描くことで救ったそうです。2024年3月11日で劇場公開40周年を迎える宮崎監督の初のオリジナル劇場アニメ『風の谷のナウシカ』(1984年)では、宮崎監督たっての希望で、慣れないプロデューサー業を高畑監督は引き受けています。
宮崎監督がアニメーション作家として自立する上で、「知の巨人」であり「妥協なき理想家」の高畑監督は欠かせないメンター的存在だったのです。高畑監督は2018年に亡くなっていますが、宮崎監督は『君たちはどう生きるか』の制作中、ずっとその存在を身近に感じていたそうです。
大恩人である高畑監督の魂をあの世へと弔うために、宮崎監督は『君たちはどう生きるか』を完成させたと言うことができそうです。
公開40周年を迎えた『ナウシカ』をめぐる謎掛け
宮崎監督は『ジブリと宮崎駿の2399日』のなかで、アニメーション制作は「タタリ神」みたいなものだとも語っています。アニメーションづくりの面白さを知ってしまった宮崎監督は、死ぬまでその呪いから逃れることができないようです。
80歳代と思えないほど精力的に仕事に取り組んできた宮崎監督ですが、『ジブリと宮崎駿の2399日』のラストシーンはとても意味深でした。ようやく『君たちはどう生きるか』を完成させた宮崎監督が、『風の谷のナウシカ』の主人公・ナウシカがオーマ(巨神兵)と一緒にいる水彩画を描いている、という終わり方でした。
もしかすると、次回作として劇場アニメ『風の谷のナウシカ』の完結編が企画されているのでしょうか。それは19歳年下の庵野秀明監督に委ねるのか、それとも宮崎監督自身が現場に立ち続けるのか。非常に気になるところです。
宮崎駿監督がアニメーションづくりの呪いから逃れられないように、宮崎アニメを観て育った私たちも、宮崎マジックから離れることができないのかもしれません。
(長野辰次)




