ジオンの「お姫様」は一年戦争後なぜ表舞台から退いたのか セイラさんのその後を追う
小説版では投資家に

富野監督が手掛けた『ガンダム』『Z』『ZZ』『逆襲のシャア』には、TVアニメや映画とはストーリーの異なる小説版が存在します。それぞれの小説は独立しており、物語世界における歴史的整合性は取れませんが、富野監督の考えが直接反映されているのが特徴です。
1986年に講談社から出版された小説『機動戦士Zガンダム 第四部ザビ家再臨』では、シャアが「ダカールの演説」をした際のセイラの様子が描かれています。彼女は自室でオレンジ・サワーを飲みながら報道を目にしました。
その頃セイラは、「ニュータイプになりそこねた普通の女」として、株式取引を行う個人投資家になっていたのです。その原因については「敵であった兄と戦ったことが、セイラを軍から決定的に離した」との記述があります。宇宙世紀0087年のセイラは完全に歴史の表舞台から去り、傍観者になっているようです。
しかしアニメの『ZZガンダム』では、主人公「ジュドー・アーシタ」の妹「リィナ・アーシタ」を救助し保護するという役回りで再び姿を見せました。セイラは「ブライト・ノア」との会話の中で「女ひとりができる投資などたかが知れているわ」と述べ、シャアの動きを不吉に感じています。
●マンガでは戦災孤児の救援活動
いっとき傍観者になった小説版のセイラに対し、マンガ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(著:安彦良和/原案:矢立肇、富野由悠季/メカニックデザイン:大河原邦男/KADOKAWA)では全く別のセイラが描かれていました。第24巻に収録された「アルテイシア0083」では、セイラがイギリスの貴族「レディ・バーリー」に匿われ、戦災孤児の支援を行う「アストライア財団」を運営している様子が描かれています。
セイラはポロ(馬に乗ってステッキで球を打つ団体競技)で活躍したり、ジオンに戻ってきて欲しいと懇願する残党の願いを退けたりと、かなり活動的です。ORIGIN版のセイラが宇宙世紀0085年のダカールの演説を目にしたら、歴史の表舞台に立ってしまうかもしれません。
また2021年に「月刊ガンダムエース」で連載が始まったマンガ『機動戦士ガンダム ピューリッツァー ―アムロ・レイは極光の彼方へ―』(漫画:才谷ウメタロウ/脚本:大脇千尋/原案:矢立肇、富野由悠季/KADOKAWA)においても、宇宙世紀0094年時点のセイラは戦災孤児の救援活動を行っています。そして彼女の傍らにはなんとリィナ・アーシタの姿がありました。
『ZZガンダム』開始時(宇宙世紀0087年)のリィナは10歳でしたから、0094年時点で17歳ということになります。ジュドーは0089年に「ルー・ルカ」と共に木星圏へ行ってしまいましたから、残されたリィナはセイラの元で学校に通っているのかもしれません。
●歴史の犠牲者のために
こうして一年戦争後のセイラの動きを調べてみると、一年戦争後に個人投資家をしているケース(小説版)と戦災孤児の支援活動を行い、アムロとシャアの死後も活動を続けているケース(マンガ作品)の2パターンがあるようです。
ちなみに小説版『Zガンダム』のストーリー展開はTVアニメとほぼ同じながら、「パプテマス・シロッコ」がコロニーレーザーの光に呑まれて消滅したり、カミーユが精神崩壊の後、死亡したりと細部が異なります。
『逆襲のシャア』以降の展開を考慮すると、やはりホワイトベースを降りた後のセイラは戦争によって被害を受けた子供たちの支援活動を行っていた、と考えるのが一番しっくり来るのではないでしょうか。
自分のルーツに自覚的で戦いによって歴史を動かすシャアと、戦乱によって被害を受けた子供たちを助けるセイラは、世界への関わり方が対照的です。セイラは兄の生き方を否定するために同じ舞台に立たないと決めたのかもしれません。
(レトロ@長谷部 耕平)


