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どうやって成立した? 色んな意味で凄すぎるジブリ『となりの山田くん』の影響力とは

『トイ・ストーリー』『スター・ウォーズ』に関わったクリエイターも『山田くん』に人生を変えられた?

映画『ホーホケキョ となりの山田くん』「適当」の文字が出る場面カット  (C) 1999 Hisaichi Ishii/Isao Takahata/Studio Ghibli, NHD
映画『ホーホケキョ となりの山田くん』「適当」の文字が出る場面カット  (C) 1999 Hisaichi Ishii/Isao Takahata/Studio Ghibli, NHD

●『となりの山田くん』で人生が変わった脚本家も

『となりの山田くん』はおよそ20億円の巨費を投じた大作でありながらも、日本では興行的には苦戦してしまいました。しかし、海外での評価は高く、スタジオジブリ作品として唯一MoMA(ニューヨーク近代美術館)に永久収蔵され、そしてクリエイターの人生を大きく変えてもいます。

 そのひとりが、後に『トイ・ストーリー3』と『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の脚本家に名を連ねることになる、マイケル・アーントさんです。彼は脚本をどこにも買い取ってもらえず、脚本家を辞めようと思って出た旅の途中のMoMAで『となりの山田くん』を観て大きな感銘を受け、初心に戻り家族の物語である実写映画『リトル・ミス・サンシャイン』の脚本を執筆しました。2006年に公開された同作は絶大な支持を得て、アカデミー賞で脚本賞と助演男優賞(アラン・アーキン)を受賞しています。

 マイケル・アーントさんの談はスタジオポノックのブログ記事にも載っており、高畑勲監督にその『となりの山田くん』を観たときの衝撃と感謝を語ったそうです。

「こんな映画があったのか。こんな監督がいたのか。この世の中に、何ら特別でない家族のささいな日常を切り抜いて、このような傑作を作り上げてしまう映画監督がまだ残っていたのか」「あなたがあの映画を作っていなかったら、ぼくは脚本家になることを諦めていました。『リトル・ミス・サンシャイン』も、『トイ・ストーリー3』も、高畑監督の作品と出会わなければ生まれなかった。全て高畑監督のおかげです。あなたにお会いできることをずっと夢見ていました。ありがとうございます!本当にありがとうございます!」など、その影響はかなり大きいようです。

 さらに、フランスのマンガ原作の2022年製作のアニメ映画『プチ・ニコラ パリがくれた幸せ』のアマンディーヌ・フルドン監督とバンジャマン・マスブル監督も、『となりの山田くん』にインスパイアを受けていました。キャラクターも背景も完全に具象化せず、素朴でおおらかな線で描き出すという原作の味わいを、アニメでどう生かすかという点に置いて、『となりの山田くん』はとても参考になったそうです。実際に観ても、手描きタッチの絵が動く『となりの山田くん』と似たアニメの気持ち良さを、たっぷりと感じることができました。

●高畑監督による「作る意味」と『もののけ姫』と正反対の理由

 高畑勲監督が4コママンガ『となりのやまだ君』のアニメ映画化に興味を示した理由は、鈴木プロデューサーいわく、高畑監督なりの「(作品として)作る意味」「新しい映像技法を開発するというテクニック上の意味」というふたつの条件を満たしうることにもあったそうです。

 その「作る意味」は、前述した「適当」「楽に生きてもいい」というメッセージから、大いに感じることができるでしょう。

 また、『となりの山田くん』からわずか2年前の宮崎駿監督作『もののけ姫』は「生きろ。」がキャッチコピーとなった、シビアな世界での過酷な戦いを描く作品でした。高畑監督はその一方で、家族の平和な日常を描きつつも「楽に生きていてもいい」と言ってのける、アプローチもメッセージも正反対といえる作品を送り届けていたのです。

 さらに、宮崎監督は「子供には現実からの逃げ場が必要である」と考えファンタジー作品を手がける一方で、高畑監督は「観客を完全に作品世界に没入させるのではなく、少し引いたところから観客が人物や世界を見つめ、“我を忘れ”ないで、考えることができるようにしたつもりです」と語っている通り、現実的な視点をすえた作品が主となっています。その両者の作家性の違いをもっとも明確に感じられるのが『もののけ姫』と『となりの山田くん』であり、そこにこそ高畑監督の「作る意味」をもっとも感じさせるのです。

 また、『となりの山田くん』の水彩画を動かすような映像技法は、2013年の『かぐや姫の物語』に受け継がれていますし、やはり「適当」を肯定する作品ながら、本編を作り上げた作り手には適当さなんてまったくない、妥協ナシで作り上げたという事実のギャップにも、頭がクラクラしてしまうような衝撃があります。配信でも観られないため、2回目の地上波放送も待ち望んでいます。

(ヒナタカ)

【画像】え…っ? 「ここがいちばんの衝撃」「天才にしかできん」こちらが『となりの山田くん』伝説の「結婚式ボブスレー」の場面です(4枚)

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