「急だな」「納得いかん」の声も多い『アナ雪』ハンスの”設定” 観返すと分かる恐ろしい「伏線」とは
ハンスは他者の「鏡」?
●ハンスは「鏡」でもある
また、監督のひとりであるジェニファー・リー氏が、「ハンスはとても魅力的ですが、空虚で、ソシオパス的な、『鏡』として描いている」と明言していることも重要です。その言葉どおり、ハンスは「目の前の人の気持ちをそのまま反映している」ところがあります。
たとえば、序盤に「とびら開けて」をアナとともに歌っているときに、ハンスはサンドイッチが好きなことを「僕と同じじゃないか!」と応え、はたまた「ウェーゼルトン公爵」に「城にある品を全て(国民に)配る気か。貿易に差し支える!」と非難されると「王女を疑うことは許さない、言うことを聞かないと法律に従い処罰するぞ!」と、相手と同じように攻撃的な態度を取っていました。
この他のシーンでも、ハンスは「誰かが望んだ(または最悪のことが起こったのではないかと心配している)言動をほぼそのまま繰り返している」点があるので、注意しつつ観てみるといいでしょう。
つまり、彼は真っ当に思える言動をしていても、それは彼の本心ではなく、相手の気持ちと一致している、文字通り「鏡像的」な振る舞いをしているのです(加えて、前述してきたように、その馬もまたハンスと同じような行動をしています)。
そのハンスのキャラクターは、原作のアンデルセンの童話『雪の女王』で、鏡が重要な存在だったことが反映されています。そちらでは、「悪魔の鏡」の破片が人間の少年「カイ」の心臓に突き刺さり、その性格を捻じ曲げてしまうのですが、仲良しの少女「ゲルダ」の涙がカイの胸に沁み渡って鏡の破片を洗い流し、カイは正気に戻る……という物語になっていました。
対して、『アナと雪の女王』では、原作の悪魔のような働きをする物質的な鏡ではなく、「心」を映す鏡としてハンスというキャラクターを置いているというわけです。その本質が「12人も兄がいて自分に王位継承権がないために、王女と出会ったその日に政略結婚をしようとして、さらにはその本人と姉を殺害することもためらわないソシオパス」だった……というのは切なく、また恐ろしくもあります。しかし、だからこそハンスはしっかり意図的な描写がされた、作り手が考え抜いた結果として生まれた悪役だと思うのです。
(ヒナタカ)