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ファミコンブーム「高橋名人の16連射はウソ」←ウワサの真相は? 本人が明かした意外な事実

いまと違って情報の裏付けやソースの確認が難しかった昭和・平成初期は、さまざまなうわさに翻弄され、真偽を見誤りました。憧れの人物を疑ううわさに踊らされ、意味の分からない文章に翻弄された当時の出来事とは。

時代と「まさか」が覆い隠す「ウソ」と「本当」

昭和からいまに至るまで「高橋名人」な橋利幸氏。画像は、『公式16連射ブック 高橋名人のゲームは1日1時間』 著:高橋名人(ファミ通ブックス)
昭和からいまに至るまで「高橋名人」な橋利幸氏。画像は、『公式16連射ブック 高橋名人のゲームは1日1時間』 著:高橋名人(ファミ通ブックス)

 真偽が定かではないうわさ話や珍事件が飛び交うのはいまも昔も変わりませんが、インターネットにつながるスマホがある現代では、その話が本当かどうか調べることが可能です。

 しかし、スマホのような便利なツールが普及していない昭和や平成初期は、怪しいうわさが流れてきても裏付けの確認が難しい時代でした。そのため、「まさかそんな」という珍説を信じてしまったり、逆に「そんなバカは話はないだろ」と思っていたら本当だったという珍事件もあったのです。

●「高橋名人」の代名詞「16連射」はウソだった!?

 1983年7月に発売されたファミコンは、『スーパーマリオブラザーズ』といった人気作の登場、専門雑誌の創刊や関連番組のTV放送なども相まって、日本中に一大ブームを巻き起こしました。このブームを象徴し、また下支えを行っていた者のひとりが、「高橋名人」の肩書きを持つ高橋利幸氏です。

 高橋氏は当時「ハドソン」に籍を置く社員でしたが、対外的には──特に、子供たちにとっては──ファミコンの名人として広く知られており、高橋名人はファミコンキッズの憧れの的でした。

 高橋名人は、1秒間にボタンを16回押す「16連射」が得意技で、ハドソン主催のゲーム大会で驚異的な連射力を披露すると、そのたびに会場が大いに沸いたほどです。しかし、その連射力には裏があるのでは……といった疑いが持ち上がったのか、「高橋名人が使うコントローラーにはバネが仕込まれており、その反動を利用して連射してる」「16連射はウソ」といったうわさが流れます。

 当時の子供たちに真偽を確かめる術はなく、ただうわさに翻弄されるばかりでした。しかし、このうわさの真偽は後に判明しています。ほかでもない高橋名人自身が、「バネを仕込んでいると、連射どころかまともにボタンが押せない」と説明しており、このうわさを否定したのです。

 バネの件は完全にデマではあるものの、ある意味では「16連射はウソだった」という話も判明しています。まず、高橋名人が最初に連射を披露したゲーム『スターフォース』は、ソフト側の都合で1秒間に15連射までしか反映しません。そのため、この時点における「16連射」は、正しい情報発信とはいえないものでした。

 また、後に発売されたゲーム『スターソルジャー』ではソフト側の都合が緩和され、16連射以上の入力も反映するようになります。そして、『スターソルジャー』を用いた撮影中、高橋名人の連射数を10秒間分抜き出して確認したところ、最大で174発……つまり、秒間17.4発の連射を叩き出していたことが判明しました。

『スターフォース』ではゲーム側の都合で最大15連射、『スターソルジャー』だと17連射と、いずれも「16連射」ではなかった高橋名人。その実力は「16連射」超えという、驚きの結末でした。

●レースゲーム画像の説明に、なぜ「インド人を右に」?

「バネ仕込み」や「16連射はウソ」といったウソ話も多数ありましたが、逆に初めて聞いた時には信じられなかった珍事件も忘れられません。そのなかでも特に印象的なのが、「インド人を右に」です。

 文章を見ただけでは、何を意味しているのかまったく分からない「インド人を右に」。これは奇跡的なミスから生まれたゲーム史上に残る誤植です。

 この誤字は、当時人気だったアーケードゲーム雑誌「ゲーメスト」で生まれました(1997年4月30日号)。『スカッドレース』というレースゲームの攻略記事のなかに、急カーブを曲がる画像が掲載されており、その左側に「くお~!!ぶつかる~!!ここでアクセル全開、インド人を右に!」という文章が添えられていたのです。

 途中まで意味の通じる文章だったのに、突然飛び出した「インド人を右に」という一文が、読者の頭を大いに悩ませました。この誤植が生まれたのは、手書きの原稿で入稿していたのが原因のひとつです。

 当時編集部に在籍していた方の説明によれば、手書き原稿が主体で、なかには個性的な筆跡で解読が困難な文章も多かったとのこと。「インド人を右に」も、本来なら「ハンドルを右に」という文章だったところ、筆跡が乱れていたので「ハ」が「イ」に見えて、「ル」が「人」に読めてしまったものと思われます。

 この説明を受けても、「そんなまさか」と思われるかもしれません。確かに、ちゃんと書けば「ハ」が「イ」に見えることはありません。しかし、「ハ」や「ル」の右側が中央下くらいに潜り込んだ筆跡となれば、話は別でしょう。

 誰もが目や耳を疑った驚きの誤植「インド人を右に」は、しかし実際にあった珍事件でした。

(臥待)

【画像】えっ、持ってたわ! これが昭和キッズが連射速度を測った「シュウォッチ」です

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