『ガンダム』ザビ家の人々はなぜ仲良くできなかったのか カギはやはり「ガルマ」?
「ジオン公国」を指導したザビ家の面々は、その仲の悪さでも広く知られます。なぜ一致団結できなかったのか、そこには「遠因」と、そして決定的な「契機」があったと見ることができるかもしれません。
権力闘争が大好きで命を狙い合う長男と長女、根回しできない三男

初代『機動戦士ガンダム』を不朽の名作としている要因のひとつは、ジオン公国を率いる「ザビ家」の人間ドラマでしょう。父「デギン」、長男「ギレン」、三男「ドズル」、長女「キシリア」、四男「ガルマ」ら「家族」は、後続のシリーズにもほとんど見られない独自要素です。
しかし、ザビ家の兄弟は仲がいいようには見えません。それぞれが拠点とする「サイド3」や宇宙要塞、月面都市や地球などは物理的な距離も遠く、互いを思いやるシーンもほとんどありませんでした。実際、長男が父を暗殺し、長女が長男を射殺という悲惨な結末を迎えています。
なぜ、関係がギスギスしていたのでしょうか。考えられる理由のひとつが、おそらく子供たちの母親がひとりずつ違っていたことです。それぞれ顔の輪郭からパーツまでも似ておらず、父デギンの容貌ともかけ離れているためです。
アニメ本編中に言及はなかったものの、スピンオフマンガ『機動戦士ガンダムMSV-R 宇宙世紀英雄伝説 虹霓のシン・マツナガ』(マンガ:虎哉孝征/メカニックデザイン:大河原邦男/KADOKAWA)に異母きょうだいとの記述があります。そうした複雑な家庭環境が火種となることは、かつて日本の戦国時代でもありがちでした。
また、長男と長女がどちらも「権力闘争大好き」なことも大きいでしょう。ギレンは木星帰りの男「シャリア・ブル」を刺客として、キシリア配下のニュータイプ部隊に送り込んでいます。
かたやキシリアも、ザビ家への復讐を企んだ「シャア・アズナブル」の正体を見抜きながら「ギレン総帥を私は好かぬ」と本音を語ることで(劇場版)、ギレン抹殺の仲間に引き込もうとしていました。ふたりとも、地球連邦軍との不利な戦いが続くなか、肉親を政敵として排除したがるほど権力闘争好きなのです。
そのようなふたりと距離を置いていたドズルも、キシリア配下の「マ・クベ」が支配する地域に、根回しもせずランバ・ラル隊を送り込む空気の読めなさでした。弟ガルマの仇討ちだからという気持ちがあったのでしょうけれど、そもそもキシリアが仇討ちを言い出さなかったことに温度差があります。
ギレンが、宇宙要塞ソロモン攻防戦で大ピンチのドズルに試作型モビルアーマー「ビグ・ザム」1機を送るに留めたのも、情の薄さがあったのかもしれません。要は手切れ金なのに「ビグ・ザムが量産の暁には、連邦なぞあっという間に叩いてみせるわ!」とはしゃぐドズルは単純すぎる感もあります。
そもそもギレンが野心を露わにしたのは、ガルマの追悼演説がきっかけです。ドズルの仇討ちもキシリアとの権力闘争もそこからで、明らかに「ガルマの死亡」からもともと危うかったバランスが崩れていきます。
ザビ家の末弟ガルマは、20歳の若さでジオン公国軍地球方面軍司令官を務めていました。とはいえ、「姉上に合わせる顔がない」と言っていたように、実際にはキシリア率いる突撃機動軍の麾下にありました。裏を返せば、忠臣マ・クベを差し置いて「司令官」を名乗らせるほど、キシリアも気を遣っていたのでしょう。
そのガルマが、ニューヤーク市長の娘「イセリナ」と婚約したり、現地の住人ともうまく付き合っていたりしたのは、コロニー落としで地球側(アースノイド)の対ジオン感情が最悪のなか、驚くべき政治的手腕です。加えてドズルが「あやつこそ俺さえもつかいこなして」と高く評価していたことは、ギレンにもキシリアにも与しなかった武人が味方に付いた可能性を示しています。
なにより、ガルマが死ななければ父デギンも気落ちせず、総指揮をギレンに丸投げすることもなかったでしょう。ザビ家にとってはガルマこそ、家庭崩壊を防ぐかすがいだったのかもしれません。
(多根清史)