マグミクス | manga * anime * game

『君たちはどう生きるか』キムタクが「父親」だった意義は? 宮崎駿の父との「一致」とは

地上波初放送の『君たちはどう生きるか』で、宮崎駿監督自身が「自分の父親にそっくりです」と語る「勝一」について、声を担当した木村拓哉さんがどのように役へと向き合ったのか、宮崎監督がどのように考えていたのかを、振り返りましょう。

木村拓哉は自分の役をどう見ていた?

映画『君たちはどう生きるか』場面写真  (C)2023 Studio Ghibli
映画『君たちはどう生きるか』場面写真 (C)2023 Studio Ghibli

 2025年5月2日の「金曜ロードショー」で、映画『君たちはどう生きるか』が放送されました。同作は「青サギ」役の菅田将暉さんや「キリコ」役の柴咲コウさんなどのボイスキャストが好評で、そのなかでも主人公の父「勝一」役の木村拓哉さんは「イヤな父親にハマっている」と、称賛されています。

 実は、後述する通り宮崎駿監督は「勝一は自分の父親にそっくりです」と語り、木村さんには「勝一は僕自身の父親です」と明言しています。

 そして、『君たちはどう生きるか』は多層的な物語で、何を示唆しているのか、さまざまな考察を見ても人によって解釈が多数分かれており、父親へのコンプレックスを乗り越える物語という側面もあります。そういった物語のなかで、木村さんが父親を演じることには、どのような意味があったのでしょうか。

※以下、『君たちはどう生きるか』本編の内容に触れています。

●木村さんが分析する「自分がしたいことをやっているだけ」な父親

 雑誌『SWITCH Vol.41 No.9 特集 ジブリをめぐる冒険』にて、木村さんは「結局、勝一は眞人(息子)の気持ちを考えていないんです。息子を気にかけているように見えるけど、こうしたら息子が喜ぶだろうなという視点がない。あくまで自分がしたいことをやっているだけなんです」と、自身の役へかなり批判的な物言いをしています。

 まさにその通りで、勝一は眞人に「学校なんて行かなくていい。どうせろくに授業もしていないんだから」と言うなど、一方的な「善意」を息子に押し付けてくる、「自分本位」な点に気付いていないという問題があります。木村さん自身が持つ声の「ヒロイックさ」が、今回の勝一役では「相手の気持ちを聞こうともしない」「自分に酔っている」かのような、ナルシストにも近い印象へと変わっていました。

●「今の時代とのズレが存在する」父親像

 さらに、『君たちはどう生きるか』のガイドブックにて、木村さんは勝一のキャラクターついて「今の時代とのズレが存在する」ことに「自覚的」でありながら演じなければならないと考え、アフレコに臨んだことが語られています。

 木村さんは「眞人や周囲に対しても、もう少しエクスキューズがあるのが現代の父親像です。でも、勝一は眞人に対しても、新たに妻になった妻の妹に対する愛情表現もストレートです」と述べていました。たしかに「善意の押し付け」「自分本位」であっても、その愛情には嘘がなく、ストレートにぶつけてくるというのも勝一らしさであり、それは現代では成立しない父親像なのかもしれません。

 さらに、木村さんは「(勝一に)対する眞人が、感情を内に秘め、表に出さないことによって、父と子の関係性が成立している。それも、この作品の特徴だと思います」とも語っています。確かに、劇中で眞人は父に表立っては反抗的な態度を取っていません。

 その代わり、こっそりとタバコを盗んだり、石で自分の頭の傷を傷つけて、後にその傷を「悪意の証」と言ったりと、「内に溜め込む」タイプになっていました。その関係性はいびつですが、これは戦時中はもちろん、いまもどこかにいるであろう父子の関係でしょう。

●宮崎駿監督の経験との共通点は

 さらに、同ガイドブックの「2017年7月3日 宮崎監督によるメインスタッフへの作品説明」にて、宮崎監督はこのように明言しています。

「この世界は、ほとんど僕の記憶の中から作られています。実際、これほど巨大な屋敷ではなかったけど、それなりに大きな別荘に居た時期がありまして、戦時中の疎開先です。その時の体験というものが下敷きになっていますので、こんなブルジョワでは決してありませんでしたが。でもここに出てくる勝一という父親は自分の父親(名前は宮崎勝次)にそっくりです。」

 父がそっくりだという眞人は、完全には同一ではないものの、たしかに幼少期の宮崎監督が投影された姿に思えます。たとえば、劇中の眞人と同様に、宮崎監督は子供の頃に小説『君たちはどう生きるか』を読み感銘を受けていますし、眞人は空襲を受けた東京から疎開し、宮崎監督は宇都宮での空襲を経験していました。

 また、眞人の母は物語の冒頭で空襲によって亡くなり、宮崎監督の母の美子さんは彼が6歳の頃から寝たきりで『風の谷のナウシカ』製作中に亡くなっています。父が航空機会社に勤めている点も同じです。

 そして、劇中で眞人は、亡くなった母の妹の「夏子」と勝一が再婚し、さらに夏子が妊娠していることに、複雑な感情を持っていました。はっきりと「エディプス・コンプレックス(母親を手に入れようと思い、また父親に対して強い対抗心を抱くこと)」に踏み込んだ物語であることについて、宮崎監督はガイドブックで「そういう闇の部分もちゃんと書いた上で、一人の少年が最後自分の人生を全うする事が出来た、そういう話です」とも語っています。

 その眞人の境遇や感情も、宮崎監督の来歴と完全に一致しているわけではないのですが、それでも、この『君たちはどう生きるか』は宮崎監督自身も少なからず持っていた(同じような感情を抱いた経験のある多くの人にとっても)、エディプス・コンプレックスを克服するための物語だったのかもしれません。

 さらに、ガイドブックによると、宮崎監督が『ハウルの動く城』以来久しぶりに木村さんと再会した時の第一声は、「勝一は僕自身の父親です」だったそうです。しかも、『SWITCH』では、木村さんはアフレコ終わりに宮崎監督から、「父のことを思い出しました」と声をかけられたとのことでした。この映画および木村さんの演技を通じて、宮崎監督は「父と向き合う」こともできたのかもしれません。

※宮崎駿監督の「崎」は「たつさき」が正式表記

(ヒナタカ)

【画像】え…っ?「あのキャラもキムタク?」 こちらが木村拓哉が声を当てた意外なキャラです(5枚)

画像ギャラリー

ヒナタカ関連記事

もっと見る

編集部おすすめ記事

アニメ最新記事

アニメの記事をもっと見る