『AKIRA』の影に隠れた傑作! 大友克洋×江口寿史が描いた『老人Z』 美少女介護士と暴走ロボの天才的発想
オリジナルビデオの予算で制作された限界も

漫画界とアニメ界に革命を起こした大友氏の新作アニメであり、大友氏をリスペクトする江口氏とのタッグ作だけに、ファンの間では過剰な期待が『老人Z』に寄せられた感があります。
落ち着いて考えれば、SF大作だった『AKIRA』に対し、上映時間80分の『老人Z』は風刺の効いた社会派コメディです。最後のオチも秀逸です。海外ではテーマ性が高く評価されています。
また『AKIRA』には製作費7億円が投じられていましたが、『老人Z』は本来はオリジナルビデオアニメとして制作されたものなので、予算はかなり限定されていたようです。そこらへんは配慮した上で、優しい目線で楽しむべきかもしれません。
江口氏が1年がかりで考案し、スケッチブック2冊分になったというキャラクターたちですが、惜しまれるのは主人公である晴子のキャラクターが弾けきっていないことでしょう。晴子は最初から最後まで真面目キャラのままです。『ストップ!! ひばりくん!』の大空ひばりのような、ぶっ飛びキャラではありません。
晴子は自分のおばあちゃんを施設送りにしたことへの罪悪感から、高沢おじいちゃんの願いを叶えさせることにこだわっています。晴子が罪の意識から解放される瞬間がきっちり描かれていれば、作品自体もかなり違った印象になっていたように思います。
日本の未来を予見した、もうひとつの『AKIRA』
大友氏は劇場アニメ『AKIRA』の制作中に、『老人Z』のアイデアを思いついたそうです。オムニバスアニメ『ロボットカーニバル』(1987年)に参加した北久保弘之監督ら若手スタッフのステップボードになるような作品として、『老人Z』のアニメ化を進めています。スタッフのなかには今敏監督、神山健治監督、鶴巻和哉監督らの名前もあるので、目的は果たしたと言えそうです。
人工知能を搭載した介護ロボットが老人と一体化した上で暴走し、さらには巨大化していく姿は、もうひとつの『AKIRA』と言ってもよさそうです。人工知能に人間社会が振り回される展開や、独居老人などの社会問題を先取りしていた点も、東京五輪をめぐるトラブルを『AKIRA』で予見していた大友作品らしさを感じさせます。優れたクリエイターは、時代を予見する能力もあるのかもしれません。
近年の江口氏は各地の美術館でイラスト展が開催されるなど、漫画家としてよりもポップアートの分野で高く評価されています。2021年にTOKYO MXなどで放映されたアニメ『Sonny Boy』などのキャラクター原案も手がけましたが、アニメ界でもっと活躍してほしい才能の持ち主です。
大友氏は2025年3月にNHKで放送された『浦沢直樹の漫勉neo』に出演し、伝説のコミック『童夢』について語っていました。『AKIRA』の再映像化の話題に番組内で触れることはありませんでしたが、これほどまでに続報が待たれているクリエイターはそうそうはいないでしょう。
U-NEXTなどで『老人Z』は配信中です。『AKIRA』もNetflixなどで視聴することが可能です。ひとまず「敬老の日」は、それらの作品を楽しみながら、新しい情報を気長に待ちたいところです。
(長野辰次)




