名作マンガ『ジャイアント台風』、ホラ話満載でも昭和プロレスのロマンが詰まっていた
創作により、「プロレスの幻想」は何十倍にも

とはいえ、そこは梶原一騎作品。日本プロレスに入門した馬場が手足をバーベルで縛られた挙句、ハチの巣とともに便所に放り込まれ、全身を刺されるメチャクチャな特訓や、ブルーノ・サンマルチノがチック・ガリバルディというレスラーをリング下に叩き落として殺してしまう事件、テキサスでのフリッツ・フォン・エリック戦に備えて、アイアンクロー対策の特訓として自ら地中に埋まったジャイアント馬場がジープに顔を轢かせるなど、相変わらずのホラ話が満載となっています。
ですが、むしろそれがプロレスラーの凄さを当時の少年たちに伝えるものとなっています。「墓場の使者、キラー・コワルスキー」や、「鉄の爪、フィリッツ・フォン・エリック」、「1000の傷を持つ男、ディック・ザ・ブルーザー」など日本でお馴染みのレスラーたちの怪物ぶり、極悪非道ぶりはもちろん、ジャイアント馬場が「32文ロケット砲」を会得する特訓に付き合うドロップキックの名手、ペドロ・モラレスや「動くアルプス、プリモ・カルネラ」がプロボクサー時代にジャック・シャーキーをリング上で殴り殺してしまったエピソードなど、物語の随所には驚愕のエピソードが散りばめられています。
特に「カルネラ」の件は完全に創作。相手のシャーキーは殺されたどころか、1994年に91歳で死去し、カルネラより長寿を全うしたことを知った時は、「梶センセ、相変わらずだなぁ」と思ったりもしたのですが、こうした情報が「プロレスの幻想」を何十倍にも増幅させ、心躍らせる要因になっていたことは否定出来ないのではないでしょうか?
インターネットの発達により、今の時代は本当のことをいとも簡単に確かめることが可能ですが、それがイコールで「面白いこと」とは言い切れないのもまた事実。往年のプロレス界の「ロマン」と、筆者のようなガチガチの猪木派でも納得せざるを得ないジャイアント馬場の全盛期の強さを改めて伝える『ジャイアント台風』……すべてのプロレス・ファンにぜひ、ご一読いただきたい名作です。
(渡辺まこと)