「ガンダム」シリーズ・2つの悲劇 フォウとステラの物語が語り継がれる理由は
数々の悲劇的展開を迎える「ガンダム」シリーズで、特に話題になることが多いふたつの物語。カミーユとフォウ、シンとステラの間に起こった悲劇は、今でも語り継がれるほどファンに大きなインパクトを与えました。
劇場版ではカットされたフォウのさらなる悲劇

『機動戦士ガンダム』の物語では、いくつかの悲劇が描かれています。なかでも、アムロ・レイとララァ・スンの敵同士でありながら分かり合えた男女の物語は、その後の「ガンダム」シリーズでも何度か繰り返された定番の展開になりました。そこでアムロとララァと同様に起こった、ふたつの悲しい物語を振り返ってみます。
まず、『機動戦士ガンダム』の続編である『機動戦士Zガンダム』では、カミーユ・ビダンとフォウ・ムラサメの物語がそれにあたります。ふたりの最初の出会いはガンダムMk-IIとサイコガンダムのコクピットの中。つまり顔を合わせてはいません。
その後、偶然から知り合ったふたりはお互いの境遇を語り、いつしかひかれあうようになります。しかし、過去の記憶のないフォウはそれを取り戻すために研究所から離れることができず、カミーユもティターンズの横暴を見過ごせないという事情から、現在の自分の立場を捨ててまで片方のもとへと飛び込むことができずにいました。
お互いにひかれあいながらも戦いを続けるカミーユとフォウ。しかし、カミーユのひたむきな言葉がフォウの心を動かします。そして、カミーユを宇宙に帰還させるため、フォウは犠牲となりました。この時、フォウの名前が4番目という意味だと知ったカミーユは、自分の名前にいだいていたコンプレックスを捨て去り、人間的に大きく成長します。
実は富野由悠季監督の当初の構想では、フォウはここで退場させる予定でした。そのため、その後に製作された劇場版ではここでフォウが退場します。ある意味、ここで退場した方が良かったのかもしれません。なぜならTV版で描かれた、この後のフォウの身の上はさらに悲惨なものだったからです。
ティターンズの拠点キリマンジャロ攻略に急きょ参加することになったカミーユは、戦闘マシンのようになったフォウと出会いました。その後、カミーユは単身基地内に潜り込みフォウと再会します。そこでカミーユは、フォウがサイコガンダムから強制的にコントロールされていることを知りました。
ふたたびサイコガンダムで戦場に飛び出すフォウ。カミーユは必死で説得を試み、フォウの心は支配から解き放たれます。しかし、その次の瞬間、カミーユを狙ったジェリド・メサの一撃から盾になってかばう形でフォウはその短い生涯に幕を閉じました。
この第36話「永遠のフォウ」を見ると分かるのですが、コントロールされていないフォウの表情が切れ長の目で描かれている設定書と違い、つぶらな瞳をしています。これは作画監督の北爪宏幸さんの判断でした。
また、声優の島津冴子さんの演技も、普段と戦う時では別人のようにトーンを変えています。このふたりの熱意が、画面をより魅力的なものにしていました。そして、それはカミーユとフォウの悲劇を、より深く刻み込むことに成功していると思います。