『鬼滅の刃』一挙放送第2夜「浅草編」 珠世の名言「あの男はただの臆病者」
鬼たちの人間ヘイトをあおる鬼舞辻無惨
どの鬼たちも、無惨のことを恐れおののき、その名前さえ口にしようとしません。しかし、珠世さまは医者だけに、とても冷静に無惨のことを分析しています。
「あの男はただの臆病者です。いつも何かにおびえている」
珠世さまは、無惨のことを闇雲に恐れることはしません。鬼たちが群れをなさないのは、集団化して反乱を起こすことを無惨が恐れているからだと、珠世さまは看破します。
鬼たちは共食いし、また最強の鬼たちが選ばれた「十二鬼月」は、鬼たちが競い合うことで順位が入れ替わります。鬼同士を争わせることで、無惨は闇世界の支配者であり続けたのです。いかにも頭のよい無惨の考えそうなことです。
無惨のこの支配術は、歴史上の独裁者たちが実際に行なってきたものと同じです。ナチスドイツを率いたアドルフ・ヒトラーは欧州に古くからあるユダヤ人に対する偏見を利用し、ユダヤ人ヘイトをあおることで、人心を掌握しました。無惨は鬼たちに人間社会を憎ませることで、自身のカリスマ性を保ってきたのです。そのことを見破った上で、鬼を巧みに挑発する珠世さまも明晰な頭脳の持ち主です。
禰豆子のモゾモゾ姿が愛らしい
珠世さまを慕う愈史郎も鬼です。不治の病に苦しんでいた愈史郎を、珠世さまは本人の了解を得た上で鬼にしたのです。無惨が恐怖政治で鬼たちを支配しているのに対し、珠世さまと愈史郎は深い信頼関係で結ばれています。
無惨を憎む珠世さまは、炭治郎に協力し、妹の禰豆子を人間に戻す薬を開発することを約束します。炭治郎兄妹にとって、わずかながらにも明るい希望を感じさせる「浅草編」です。
だが、鬼たちは黙ってはいません。無惨から命令を受けた手毬鬼・朱紗丸と矢印鬼・矢琶羽が、珠世さまたちの隠れていた屋敷を襲います。このコンビはかなり手強い相手です。炭治郎は「水の呼吸 弐ノ型 水車」「捌ノ型 滝壺」「参ノ型 流流舞い」「陸ノ型 ねじれ渦」など、あらゆる型を駆使して立ち向かいます。
ストーリーと直接関係はありませんが、珠世さまが隠れ家で大切なお話をしている間、禰豆子は退屈なのか眠気を振り払うためか、畳の上でずっとモゾモゾしています。その様子が、とても愛らしく描かれています。生きるか死ぬかの激しい描写が続く『鬼滅の刃』ですが、炭治郎と愈史郎とのおかしなやりとりも含め、「浅草編」からはコメディ演出がかなり増えていきます。
シリアスな戦いの連続のなかに、なにげない笑いが挿入されることで、炭治郎も視聴者もフッと肩の力を抜くことができます。『鬼滅の刃』スタッフ&キャストのそんな遊び心が、ファンのハートをさらにがっちりとつかんでいるのではないでしょうか。
※禰豆子の「禰」は「ネ」+「爾」が正しい表記
(長野辰次)