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富野由悠季初監督作『海のトリトン』の衝撃 アニメ史に残る「善と悪の大逆転劇」とは 

近年では善と悪の構図が逆転してしまう作品は、アニメでも映画でもそこまで珍しくはありません。しかし、今から40年以上前に、最終回で何の伏線もなく善悪逆転の大どんでん返しをくらわせた衝撃のアニメがありました。そのタイトルは『海のトリトン』。どんでん返しを仕掛けたのは、『機動戦士ガンダム』の富野由悠季監督でした。

すべてがひっくり返るラスト15分

本来は原作者・手塚治虫本人が虫プロでアニメ化する予定だった『海のトリトン』 (C) 手塚プロダクション・東北新社
本来は原作者・手塚治虫本人が虫プロでアニメ化する予定だった『海のトリトン』 (C) 手塚プロダクション・東北新社

 2021年公開の映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』まで40年以上にわたって愛されるガンダムシリーズ。その生みの親は日本アニメ界の巨匠、富野由悠季氏です。常に予想外の展開で視聴者を驚愕させる富野氏の才能は、初監督のTVアニメ作品から発揮されていました。それが『海のトリトン』(1972年、当時は本名の「富野喜幸」名義)です。

 マンガの神様・手塚治虫先生の連載作品『青いトリトン』が原作ですが、富野氏はこれを読んで「つまらない」と思い、内容をほぼ変えてオリジナル化します。大まかなストーリーは、「5000年前のアトランティス大陸で、ポセイドン族との争いで滅ぼされてしまったトリトン族の末裔、少年トリトンは、伝説の『オリハルコンの剣とほら貝の秘密』を探すため、そして海の支配を企むポセイドン族を倒すため、海の旅に出る……」というものでした。

 基本的には冒険を通してトリトンが成長していく王道の少年向けアニメだったのですが、問題の最終回、第27話「大西洋 陽はまた昇る」で、視聴者は度肝を抜かれます。「本当に悪いのは、ポセイドン族ではなくトリトン族だった」と、物語の前提が覆る大どんでん返しが明らかになるのです。しかも、それまで伏線がなく、唐突な展開でした。富野氏はこのラストを提案すれば脚本家たちから反発を受けるのは目に見えていたので、秘密裏に最終回の脚本を書き上げていました。

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