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富野由悠季初監督作『海のトリトン』の衝撃 アニメ史に残る「善と悪の大逆転劇」とは 

13歳の少年が1万人を大虐殺するクライマックス

 アニメ『海のトリトン』最終回の内容を、もう少し詳しく説明します。冒険の果てに、トリトンは海底に沈んだアトランティス大陸へたどり着き、ついにラスボスのポセイドン像と対峙します。ところがポセイドンは、トリトンの武器である輝くオリハルコンの短剣をさやに納めろと懇願してきます。ポセイドンは「これ以上動くと、我らポセイドン族は全滅する!ポセイドン像はオリハルコンの輝きに引かれて動き出すのだ!」と言いました。
 
 トリトンは「この声はポセイドンではない?」と感づきます。輝いた短剣の力でポセイドン像が動き出すと、その奥に輝く空間につながる道が見え、トリトンはなかへ入っていくのですが……。

 そこは古代ローマのような都市が広がっていて、人間の死体がゴロゴロと転がっていました。ポセイドンの「これがトリトン、お前が犯した罪だ」という声が響きます。都市のなかには黄金色に光る「ほら貝」がありました。

「この法螺貝は、オリハルコンの剣が近づくと働き、剣の輝きの力でお前の質問に答えるようになっている。しかし剣を抜くことはポセイドンの像をひきつけ、呼ぶことになる」

 上記のセリフはアニメからの抜粋ですが、かなりわかりにくい内容です。このあと、ほら貝の説明とトリトンの会話のみでポセイドン族とトリトン族のこれまでの歴史が語られますが、具体的な回想シーンもなく、しかもかなり複雑なので理解しづらいのです。改めてDVDを見ながら解釈してみると……

・遠い昔、アトランティス人は特殊な金属、オリハルコンで巨大なポセイドンの神像を作り、ポセイドン族をその生け贄にして海底に封印した。しかし、ポセイドン族の一部の人びとは、逆にオリハルコンのエネルギーのおかげで生きのび、海底都市を作る。

・ポセイドン族はアトランティス人への復讐を誓い、オリハルコンのエネルギーを使ってアトランティス大陸を沈めてしまう。その時、生き残った少数のアトランティス人はトリトン族と名乗り、ポセイドン像に対抗して、マイナスのエネルギーを持つオリハルコンの短剣を造っていた。

・オリハルコンの短剣はプラスエネルギーを持つポセイドン像を破壊する力を持つ。ポセイドン族はポセイドン像を守るため、トリトン族に戦いを挑む。ポセイドン族は、自分たちが生きのびるために戦っていた。

・ポセイドン像のおかげで現代まで生き延びていたポセイドン族だが、トリトンが持ってきたオリハルコンの短剣の力でポセイドン像が動き、エネルギーが供給されなくなり、都市で暮らしていた1万人のポセイドン族は全滅してしまう。つまり、トリトンがポセイドン族を滅ぼした。

 ……このように解釈できます。

 ポセイドン像から「ポセイドン族を滅ぼしたのはお前だ!」と責められ、「俺が悪いんじゃない、ポセイドンが海の平和を乱すからだ!」と言い返すトリトン。その後、ポセイドン像との戦いには勝利しますが、殺してしまった人びとが戻ってくることはなく、なんとも後味が悪い結末でした。最後はルカー(イルカ)の背に乗り海を行くトリトンの姿に、「そしてまた少年は旅立つ」というナレーションが重なり、物語は締めくくられます。

 今でも賛否が分かれるこの最終回は、「トリトンがポセイドン族を絶滅させた」という点が注目されていますが、一方のポセイドン族も、アトランティス大陸を沈めて大勢の人を殺し、その後も海の世界を荒らして地上の人間まで困らせていました。本当に悪いのはどちらなのでしょうか?

『海のトリトン』は、富野氏がのちに『無敵超人ザンボット3』や『機動戦士ガンダム』『伝説巨神イデオン』などで描くテーマの一端にある、「正義とは何か」という問いを最初にぶつける原点的作品といえるでしょう。

(石原久稔)

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