『ベルサイユのばら』オスカル様は「こじらせ系」!? 不意打ちキスに成功した4人の男性とは
思いがけない相手からのプロポーズ

●光の中の優しいキス
4人の不意打ちのキスのなかでも、オスカルがもっとも驚いたのが、王太子(おうたいし)、ルイ・ジョゼフのキスでしょう。
1781年、ルイ16世とマリー・アントワネットの第2子として生まれたルイ・ジョゼフは、幼い頃から病弱でしたが、聡明な少年でした。自分の死期を悟っている様子もあり、いよいよ体調がすぐれなくなってきた頃、オスカルに馬で外に連れて行って欲しいと懇願。マリー・アントワネットからも頼まれ、ふたりは馬で外出します。その際、フランスの行く末に思いを馳せたルイ・ジョゼフは、突然、オスカルにキスするのです。そして、「あなたが……好き……」と告白すると、「こんど…生まれてきたら きっと…… きっと病気なんかしないで…… 元気で大きくなって…… りっぱな青年になって…… だから…… 急ぐから… 待って……」と告げるのでした。後日、オスカルはアンドレに「アンドレ…… わたしは王妃になりそこなったぞ」と、涙を隠しながらつぶやいています。
息子、ルイ・ジョゼフの死だけでも、母であるマリー・アントワネットにとって大きな悲しみでしたが、葬儀の費用がないことが発覚。それまでの自分の散財の報いなのかと愕然とするのでした……。
実際には、乳母のひとりから結核をうつされ、それがもとで脊椎カリエスになったと言われています。
●一生分の片思い
オスカルの4人目の不意のキスの相手は、衛兵隊に所属するアラン・ド・ソワソンです。
アランは貴族であり、士官学校出身であったため以前は少尉でしたが、面会に来た彼の妹に手を出そうとしたオスカルの前の隊長を殴りつけたせいで兵卒に格下げされました。着任早々のオスカルと決闘した際には、剣が得意なオスカルが負けを覚悟するほどの腕前を誇る隊の兄貴分です。
オスカルとアランたち衛兵隊の隊員たちは衝突を繰り返しますが、個人の心の自由を認め、力で押さえつけたくはないというオスカルの思いを知って、次第に和解します。アランも、初めこそ敵対心を隠さず激しく反発しましたが、ディアンヌの死などを乗り越え、オスカルを慕うようになっていきました。
そして、1789年6月23日、三部会の会議場でドルー・ブルゼ侯が平民代表議員たちを正面玄関から入れず、雨のなかで待たせ続けるのを目の当たりにしたアランは、衝動的に剣を抜いて走り出したのです。オスカルが追いかけ、「ばかっ!! 無意味なことはやめるんだ!!」とアランの腕を取ります。すると、アランがオスカルに強引にキスしてきたのです。身をよじって抵抗するオスカルをなお追うアランを鬼の形相で引き離したのは、アンドレでした。アランを殴りつけようとしたアンドレですが、その瞳にオスカルへの思慕を感じ、拳を下ろします。「おまえもかアラン…!! むくわれぬ愛にこれからじっと…… 長いときの営みをたえるの…か…」と。
作者の池田理代子先生がナポレオン・ボナパルトを主人公に、『ベルサイユのばら』の直後のフランスを描いた『栄光のナポレオン-エロイカ』では、オスカルへの「一生分の片思い」を胸に生きていました。
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アンドレは温厚で気さくだけだけど情熱的、ジェローデルはクールでナルシスト気味(笑)、アランは頼れる兄貴分でワイルド、ジョゼフ殿下は頭がよく利発な少年でした。タイプは違いますが、全員に共通しているのは,、オスカルへの愛を長い間、表に出していないこと。抑えきれなくなった愛情が突然のキスという行動になっているのですね。
*作品中では、フェル「ゼ」ンとなっていますが、史実ではフェル「セ」ンです。
(山田晃子)