スーパー戦隊で唯一の打ち切り『ジャッカー電撃隊』 今の戦隊があるのは彼らのおかげ?
1977年に期待されてスタートした『ジャッカー電撃隊』は試行錯誤を繰り返しますが、偉大な『ゴレンジャー』の呪縛には勝てず35話で打ち切り……しかし、これによりスタッフはシリーズの道筋が見えたのかもしれません。
『ゴレンジャー』超えに挑んだ、スーパー戦隊第2作

2022年春スタートのスーパー戦隊シリーズ第46作『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』のモチーフが童話「桃太郞」であるというニュースにネットが沸きました。このスーパー戦隊シリーズはどんなに人気が沸騰しても、逆に人気が振るわなくても1年(約50回放送)で新作に変わります。ところが、過去には1年と放送が持たずに35回で終了した戦隊作品があるのをご存じでしょうか?
それが、1977年4月にスタートした戦隊シリーズ第2作『ジャッカー電撃隊』です。2年間続いた大ヒット作『秘密戦隊ゴレンジャー』の後番組です。当時の子供たちは「ゴレンジャーが終わる。でも新しい戦隊ヒーローが見られる! 楽しみ!」と、期待に胸を躍らせました。しかし、その期待を背負う制作スタッフは偉大な初代作を超えるプレッシャーに苦しんだのです。
●コスチュームはわかりやすく好評だったが…
ゴレンジャー人気も永遠ではありませんでした。内容がマンネリ化してきたため終了したわけです。つまりこのマンネリを打破する新しい要素で人気を勝ち取らなければなりませんでした。
第2作目はグループの設定を残し、誰もが知っているトランプの絵柄4種類をモチーフにしたサイボーグ4人組、という斬新な設定となりました。娯楽性をなるべく省いてシリアスに、映像的には当時流行したスーパーカーも登場させ、メカニックの格好良さと役者のスパイアクションで惹きつける……そんな要素を盛り込んで挑みました。
スタートは視聴率20%を超えました。トランプをモチーフにしたコスチュームは好評でしたが、人気は下降線をたどります。幼いころに見ていた記憶ですが、犯罪組織クライムが一般人を射殺したり、組織の偉い人に白髪のおじさんがいたりと、刑事ドラマみたいな展開。変身前のヒーロー4人にいたっては、つたない日本語で話すカレン水木以外はインパクトに欠け……子どもにはシリアスすぎたように思います。ただ、変身してからの戦闘シーンは派手で楽しく見ていました。
つまりは、愉快痛快だった『ゴレンジャー』の印象が強く、どうしても比べられてしまうのです。また、子供はコミカルなシーンが少ないと物語を理解する集中力が持続できません。狙った世界観が裏目に出ました。
●救世主!? アオレンジャーだ!
そこでテコ入れが行われます。第13話から『ゴレンジャー』要素が強くなり、クローバーキングの大地が女装をするなど三枚目キャラに変わっていきます。目線が共感できる子供の登場も増えました。敵の怪人もゴレンジャーの怪人のように、少しマヌケな感じが出てきます。
さらに第23話から、突然の新ヒーロー「ビッグワン」が仲間に加わります。みんな驚いたはずです、「アオレンジャーだ!」。ビッグワンに変身するのは『ゴレンジャー』で絶大な人気を誇ったアオレンジャーの宮内洋さんでした。番場壮吉という役でジャッカー部隊のトップに座ります。
宮内洋さんの存在感は絶大で、他の4人は完全に食われてしまいました。主役であるスペードエース・桜井五郎を演じる丹波義隆さんは俳優・丹波哲郎さんの長男でした。宮内さんは丹波哲郎さんと師弟関係にあったのでかなり気まずかったと思います。
番組としてはこれが最後のカードだったかもしれませんが、途中参加のキャラがトップになる違和感、また第29話から「ビッグボンバー」という大砲を放つ合体技が登場しますが、これがゴレンジャーハリケーンのように弾が変形して怪人を爆破!……こうなるともはや、『ジャッカー』か『ゴレンジャー』か分からないとツッコまれるようになります。
何を試しても安定した人気を保てず、『ジャッカー電撃隊』は第35話を持って打ち切りとなります。このときは、のちに戦隊が45年以上続くシリーズになるとは夢にも思わなかったでしょうが、これが唯一の打ち切り作品として逆に名を残すのでした。
●『ジャッカー』の苦悩を忘れるな
『ジャッカー電撃隊』が残したのは汚点だけではありません。裏を返せば功績の方が大きいと言うこともできます。
打ち切りの翌年からスタートした『バトルフィーバーJ』以降、毎年新シリーズを打ち出し続いていますが、共通するのは「グループヒーローで、それぞれにカラーをつけ、コミカルでカッコイイ」です。
また、あくまで憶測ですが、『ゴレンジャー』のように長期間放送して落ち目になってから終了したのでは、次作によって人気を復活させにくくなります。このあおりを受けて苦しんだのが『ジャッカー電撃隊』だったのではないでしょうか。
手を変え品を変え、同じテンションを保ちながら作品をバトンタッチさせてゆくスーパー戦隊シリーズは、「1年」という放送期間を踏襲し続けています。2022年の『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』は桃太郞をモチーフにするという挑戦に出ますが、内容の基本線は変わらないでしょう。大切なことはすべて『ジャッカー電撃隊』が教えてくれていますから。
(石原久稔)