現実社会を投影してきた映画『バットマン』 明るいヒーローから偏屈キャラへと変身
ヒーローよりも魅力的なヴィラン(悪役)たち

バットマン=正義のヒーローというイメージを一変させたのは、ティム・バートン監督です。マイケル・キートンを主演に起用したティム・バートン版『バットマン』(1989年)は、プリンスによるサントラ「バットダンス」とともに世界的大ヒットとなります。
ティム・バートン監督が復活させた『バットマン』は、ダークファンタジー色の強い作品になりました。主人公のブルース・ウェインは、内向的な性格です。フランク・ミラーが1986年に出版した大人向けのコミック『バットマン:ダークナイト・リターンズ』の影響も受けていますが、ティム・バートン監督自身の内面が投影された人物造形だと言えるでしょう。
素顔のブルースは、人づきあいが苦手です。仮面を被ったバットマンに変身し、犯罪者たちと戦うことにブルースは生きがいを感じています。さっそうとしたヒーローではなく、かなりの偏屈キャラです。
ティム・バートン監督がさらに愛情を注いだのは、続編『バットマン リターンズ』(1992年)でした。ペンギン(ダニー・デヴィート)、キャットウーマン(ミシェル・ファイファー)、バットマンが三つ巴バトルを繰り広げることになります。
親から愛されなかった哀しい生い立ちを持つペンギン、職場でのパワハラに悩むキャットウーマンに、比重が置かれた作品です。ヒーローよりもヴィラン(悪役)に観客は感情移入してしまうという、「バットマン」シリーズの倒錯的な世界観がこの作品から確立されることになります。 キャットウーマンのボンテージファッションも、インパクト大でした。
ヒース・レジャーが熱演した『ダークナイト』
ジム・キャリーがリドラー役を演じたヴァル・キルマー主演作『バットマン フォーエヴァー』(1995年)、ジョージ・クルーニー主演作『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』(1997年)を経て、シリーズ決定版となったのがクリストファー・ノーラン監督による「ダークナイト」三部作です。
カメレオン俳優の異名を持つクリスチャン・ベールが主演した『バットマン ビギンズ』(2005年)に続き、センセーショナルな話題となったのが『ダークナイト』(2008年)です。バットマンの宿敵であるジョーカーをヒース・レジャーが大熱演。ヒース・レジャーの徹底した役づくりは鬼気迫るものがあり、アカデミー賞助演男優賞に選ばれています。
しかし、ヒースは授賞式に出席することはできませんでした。薬物の過剰摂取により、映画の完成前に急逝していたのです。28歳という若さでした。
その後、『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』(2016年)では、ベン・アフレックがバットマンに扮しています。かつては明るくコミカルなイメージのあった『バットマン』ですが、時代とともにバットマンのキャラは複雑化し、物語もひと筋縄ではいかないものになってきました。格差社会が犯罪王ジョーカーを生み出したことを描いた『ジョーカー』(2019年)がヒットしたことも、記憶に新しいところです。
映画は現実世界の「写し鏡」だと言われています。ゴッサムシティという架空の街を舞台にした「バットマン」シリーズですが、凶悪犯罪が多発する現代社会を投影した世界でもあるようです。
(長野辰次)