さようなら、節子が愛した缶入りドロップ 『火垂るの墓』ほかジブリ印のおやつたち
劇場アニメ『火垂るの墓』に登場した、缶入りの「サクマ式ドロップス」の製造会社が廃業することが報道されました。節子が愛したドロップの味を、懐かしく感じる人が多いようです。ジブリ作品に登場した、印象に残るお菓子とそのシーンを紹介します。当時の記憶がまざまざとよみがえるのではないでしょうか。
「ジブリ飯」とは、ひと味違う「ジブリおやつ」

「またドロップ、なめたい」
節子のそんな言葉が脳裏によみがえった人もいるのではないでしょうか。スタジオジブリ制作、高畑勲監督による劇場アニメ『火垂るの墓』(1988年)に登場したことでも知られる「サクマ式ドロップス」ですが、製造会社である「佐久間製菓」が2023年1月に自主廃業することが報じられました。
スタジオジブリの作品は、主人公たちの日常生活をディテール豊かに描くことで定評があります。宮崎駿監督の『天空の城ラピュタ』(1986年)の「目玉焼き載せトースト」、『崖の上のポニョ』(2004年)の「ハム入りラーメン」などは、「ジブリ飯」として人気があります。
観ているだけで食欲が湧いてくる「ジブリ飯」ですが、今回はジブリ作品に登場したお菓子「ジブリおやつ」に着目したいと思います。
『火垂るの墓』で涙を誘ったドロップの空き缶
かつては夏休み映画の定番となっていた『火垂るの墓』。4歳の少女・節子のお気に入りのお菓子として、すっかり有名になったのが缶入りドロップでした。佐久間製菓の創業者・佐久間惣次郎氏が1908年(明治41年)にサクマ式ドロップスの製造を始め、1913年(大正2年)から缶入りとして発売されるようになりました。大変な人気となり、初代佐久間氏は「ドロップ王」と呼ばれたそうです。
イチゴ、レモン、オレンジ、パイン、リンゴ、ハッカ、ブドウ、チョコ、8種類の味のカラフルなドロップが缶に入っていました。缶をカラカラと鳴らし、何味が出てくるのかが楽しみでした。
戦前から子供たちに愛されたサクマ式ドロップスですが、太平洋戦争が始まると砂糖を入手することが困難になり、佐久間製菓は1944年(昭和19年)にも一度廃業に追い込まれています。
ドロップの入っていた空き缶に水を注ぎ、かすかに甘みがする水を節子が愛おしそうに飲み干すシーンは、胸に迫るものがありました。
直木賞を受賞した野坂昭如氏の原作小説では、冒頭にドロップが入っていた空き缶が出てくるだけで、ドロップに関する具体的なエピソードは描かれていません。ドロップの懐かしい味覚を使い、戦時中の節子と戦争を知らずに育った戦後世代との記憶を巧みに結びつけた高畑監督の演出手腕がお見事でした。
物価の高騰やコロナによる販売減が、今回の佐久間製菓の廃業理由だそうです。100年以上愛され続けた人気のお菓子が消えることは、一抹の寂しさを感じさせます。