『THE FIRST SLAM DUNK』は史上最も「原作に忠実なアニメ化」 自分がいる場所が分からなくなる体験
自分のいる場所が、現実か作品のなかなのか分からなくなる感覚

『THE FIRST SLAM DUNK』で最も驚かされたのは、非常にリアルな形でバスケの試合が展開されていく点です。登場するキャラクターたちは皆がコートのなかで走り回ってマークを外そうとしたり、身体をぶつけ合って優位を獲得しようしたりしています。井上先生もインタビューで「足の踏み方やボールを貰ったときの身体の反応、シュートに行くときのちょっとしたタイミングなど、ぼく自身が体感として覚えている“バスケらしさ”をそのまま表現している」と語っており、キャラクターたちの動きの生々しさを出すためにかなり気を使っていることがうかがえます。なお経験が浅い桜木花道は、本当に素人らしい動きをしばしば見せているのも面白いところです。
さらに音も非常に重要なポイントです。バスケットボールのバウンド音は、筆者が学生時代に体育館で何度も耳にしたものと完全に同じ。この音を聴くだけで一気に数十年の時間を引き戻されたように感じました。また、選手たちの息づかいや心臓の音も、地味ながらも作品への没入感を増すための重要な要素として組み込まれていたのが印象的でした。
筆者は原作を「週刊少年ジャンプ」連載時から追っており、単行本も何度読み返したか分かりません。当然、ストーリーは頭に入っています。なのに、それまで紙の上で展開されていたシーンがアニメとして動いているのを見ると「次はいったいどんなシーンが見られるのか」と、試合展開が分かっているにも関わらず、どんどん試合のなかに引き込まれるような感覚を覚えたのです。
音・声・動き、そしてキャラクターたちの想いや熱が混然となりもたらされる命の躍動。『THE FIRST SLAM DUNK』が見せてくれたものを、あえて言葉にするならこうなるでしょうか。ラストのあたりではいま自分がいるのは現実なのか、それとも作品のなかなのか分からなくなるほどの没入感に見舞われたのです。作中の時間の進みはどんどん遅くなるのに、加速していく物語と熱気はかつて想像していた以上にすさまじいものでした。
『THE FIRST SLAM DUNK』は、今の日本アニメが到達した最高峰のひとつであることは間違いありません。未鑑賞の方はなんとしても劇場へと足を運ぶべきでしょう。
(早川清一朗)