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大谷、藤井聡太ら競技界の「ニュータイプ」が生まれた背景 変化は「若い世代」だけじゃない?

近年、若い世代のなかからアニメやマンガの主人公を超えた存在が現れるようになりました。メジャーリーグ・エンゼルスの大谷翔平選手、NPBのロッテに所属する佐々木朗希投手、将棋の藤井聡太六冠の活躍は、『機動戦士ガンダム』を見てきた世代にとっては「ニュータイプ」を思い起こすのではないでしょうか。

フィクションの限界を「現実」で塗り替える者たち

『機動戦士ガンダム』におけるニュータイプは、通常の人類を超越した能力で戦果をあげた、進化した人類として描かれ。画像は『機動戦士ガンダムII 哀・戦士編』特別版DVD(バンダイビジュアル)
『機動戦士ガンダム』におけるニュータイプは、通常の人類を超越した能力で戦果をあげた、進化した人類として描かれ。画像は『機動戦士ガンダムII 哀・戦士編』特別版DVD(バンダイビジュアル)

 近年、若い世代のなかからアニメやマンガの主人公を超えた存在が現れるようになりました。メジャーリーグ・エンゼルスの大谷翔平選手、NPBのロッテに所属する佐々木朗希投手、将棋の藤井聡太六冠など、圧倒的なパフォーマンスを誇るアスリートたちの活躍ぶりをマンガやアニメにそのまま取り入れたら「いや、こんな主人公は嘘くさいからダメ」と、ボツにされかねません。

 しかし彼らは現実に存在し、古い価値観を次々と飛び越え、フィクションという虚構の限界を塗り替えようとしています。その異次元の活躍に、『機動戦士ガンダム』を見てきた世代のなかには人類の革新「ニュータイプ」が現実化したのでは……と感じる人もいるのではないでしょうか。

 特にものすごいのが大谷選手です。投打ともにメジャーリーグトップクラスでサイ・ヤング賞とホームラン王を同時に争う選手が、まさかこの世に登場するなどと、誰が予想したでしょうか。偉大なメジャーOBから「君はどの惑星からやって来たの?」と尋ねられたのも当然でしょう。大谷選手は日本の田舎から来たと答えていましたが、「実は野球の星から来たんですよ」と言われたほうが納得できた気がします。

 そんな大谷選手をもしアニメやマンガのキャラクターと比較するならば、おそらくは『MAJOR』の茂野吾郎が最も近い存在になるでしょう。投げる、打つ、走るのすべての高みを目指した吾郎は最終的には投手としてメジャーでサイ・ヤング賞をはじめとする輝かしい成績を残しましたが、まさか二刀流で吾郎に肉薄する存在が出てくるとは思いもしませんでした。

 佐々木投手についていえば、故・水島新司先生の『男どアホウ甲子園』の主人公である藤村甲子園か、『球道くん』の主人公、中西球道が比較対象となるでしょう。両者ともに高校生の時点で160キロを超えるスピードを武器に活躍したキャラクターです。特に球道は『大甲子園』に登場した際に明訓高校・山田太郎との対決で最速163キロを記録しています。

 昭和時代の高校生投手は130キロ半ばでも速いとされており、現実的にはあり得ない数字でしたが、佐々木投手は高校時代で160キロを計測し、近年は164キロを連発するなど、マンガの主人公と同等かそれ以上の活躍を見せています。

指導者層の「変化」にも影響があった?

 ただ、佐々木投手とふたりの主人公で異なる点は、佐々木投手は高校時代からプロに至るまで壊れないよう大事に育成されたのに対し、藤村甲子園はプロ入り後に2年連続で30勝以上を挙げるも3年目で故障し引退、中西球道もやはり故障し、長いリハビリの果てに復帰を果たしています。

 現実に、高校時代の「酷使」の影響を受けた選手は元巨人軍の江川卓氏をはじめ、枚挙にいとまがありません。指導者のレベルが向上し、投手の回復に対する知識が広まったのも、佐々木投手のような存在が活躍できる大きな要因となっているのでしょう。

 藤井六冠に関しては、ライトノベル『りゅうおうのおしごと!』の主人公・九頭竜八一が想起されます。八一は16歳でタイトルのひとつ「竜王」を獲得した天才であり、藤井六冠が初タイトルを獲得した17歳11か月よりは早いのですが、その後の戦績は藤井六冠が圧倒しており、作者の白鳥士郎先生も、しばしばフィクションが現実に負けているとツイートしています。

 しかし、これも仕方がありません。藤井六冠の戦績を改めて見直してみても、「いや、こんな主人公がいたら嘘くさいでしょ……」と感じるほどのすさまじさです。将棋に関しては引退した加藤一二三氏や羽生善治棋士のように、若かりし頃から目覚ましい成績を挙げていた方々もおられますが、現代はパソコンやネットの発達により、将棋の進化がさらに加速しています。若手の成長速度が速くなっている時代において、圧倒的な成果を出している藤井六冠も「ニュータイプ」に思えます。

 なぜ若い世代から「ニュータイプ」のような存在が生まれるようになったのでしょうか。ひとつ考えられるのは、物心ついたときからインターネットに触れられる年代のため、上の世代と比較して手に入れられる情報量が圧倒的に多い点が挙げられます。

 もちろん、いい加減な情報も大量に存在していますが、リテラシーが高まれば不要な情報はある程度カットできるようになるでしょう。同時に、指導者になる世代も勉強しようと思えばいくらでも情報にアクセスでき、視野を広げ、自分を高められるようになったのも大きいと考えます。『ガンダム』のように殺し合いのなかでははく、競技のなかで「人類の革新」を見ることができたのは、現代を生きる私たちにとって幸せなことではないでしょうか。

(ゆうむら)

【画像】大谷、佐々木、藤井聡太から連想できるマンガ主人公とは?(5枚)

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