『ガンダム』の皮肉屋、カイ・シデン ホワイトベースで担っていた「真の役割」とは?
「感情の代弁者」としてのカイ・シデン

例を挙げると、6話「ガルマ出撃す」で疲れ果てたアムロがカイたちを無視して通り過ぎた際に、「戦ったのは何もガンダムばかりじゃねえんだよ」と不満を口にしています。すぐにハヤトに「よしなよ、そんな言い方!」とたしなめられていますが、ハヤトも「言い方」しか注意していません。カイの言葉の内容自体には、ハヤトもある程度は同意しているのでしょう。
アムロが優遇されていることに不満を持った際にはホワイトベースを脱走し、ジャブローでカツ・レツ・キッカたちがホワイトベースを下ろされそうになった際には子供たちに代わって抗議し、ア・バオア・クー戦の前に皆が不安になっていると感じた際にはアムロに皆を安心させるよう促すなど、カイは自分の感情だけでなく、周囲の感情を上手く処理するための役割を果たしています。
カイは皮肉屋ではありますが、実は周囲に気遣いができる優しい人間なのです。それを理解したからこそ、ホワイトベースのクルーたちもカイを大切な仲間として受け入れたのではないでしょうか。
さて、カイといえばミハル・ラトキエとのエピソードを欠かすことは出来ません。27話「女スパイ潜入!」で軍人になることを拒みホワイトベースを降りたカイは、物売りのフリをして近づいてきたミハルと知り合います。カイはミハルがジオンのスパイであることに気付いていましたが、小さな弟と妹の面倒を見ていることを知り、ホワイトベースの情報を与えてしまいます。苦戦するホワイトベース隊の姿を遠目で見ていたカイですが、駆け戻ってガンタンクで出撃し、仲間の窮地を救ったのです。
続く28話「太平洋、血に染めて」では、ホワイトベースに潜入したミハルを匿い、ともにガンペリーで出撃しますが、ミハルはミサイル発射の際に爆風に巻き込まれて落下し、命を失いました。27話と28話はカイが戦いへの覚悟を決める重要なストーリーであり、事実上の主人公だったといえるでしょう。
ミハルとの悲しい別れの後、戦士として飛躍的な成長を見せたカイは、ゴッグやリック・ドムなど手ごわいモビルスーツをたびたび撃破し、より経験が深いスレッガー・ロウ中尉を戦闘中にたしなめるほどになりました。しかしカイは軍人としての人生を選ぶことはなく、戦後は除隊し、ジャーナリストへの道を歩み始めます。
優れた洞察力を持つカイにとって、おそらくジャーナリストは天職であり、多数の賞を受賞したとされています。ホワイトベースクルーたちのなかでも比較的「成功した人生」を送った人物が、カイ・シデンという優しい男だったのは、偶然ではないのでしょう。
(ゆうむら)