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『君たちはどう生きるか』が「難解」と言われるワケ 暗喩だらけの本作を読み解く3つのポイント

スタジオジブリの暗喩

ジブリ作品ではしばしば現実から異界へと迷い込む。画像は『千と千尋の神隠し』のスタジオジブリ画面写真 (C)Studio Ghibli
ジブリ作品ではしばしば現実から異界へと迷い込む。画像は『千と千尋の神隠し』のスタジオジブリ画面写真 (C)Studio Ghibli

●ポイント2 石の世界はスタジオジブリの暗喩?

 石の世界にはどこかでみたことのあるジブリ作品の描写が数多く登場します。『天空の城ラピュタ』のように外壁をよじ登り、横穴には『風の谷のナウシカ』に登場した蟲がいます。水の描写は『崖の上のポニョ』のようですし、その他にも多くのシーンにこれまでのジブリ作品が見て取れます。

 石の世界をスタジオジブリの暗喩として映画を見ると、なぜ「13個の石の積み木」で世界が維持されているのかすぐに分かりますし、持ち帰った石に関わるメッセージが読み取れるようになるでしょう。

●ポイント3 物語の大筋と監督のメッセージを分けて視聴すると混乱しない

 本作は目に見えるストーリーと隠されたメッセージの二重構造です。このふたつの構造は全く別物なので最後まで合流しません。統合して理解しようとしても難しいでしょう。

 物語の進行に必要なシーンは下記の通りです。

・母の病院が火事になり、眞人が病院に駆けつけるシーン
・眞人が若いキリコと漁をしたり、解体作業を通じてたくましくなっていくシーン
・眞人が少女時代の母ひさ子と冒険したり、手料理を食べたりするシーン
・眞人が石の産屋で継母夏子の荒れ狂う本心を受け止めるシーン
・眞人が母の愛情を確かめて別れるシーン
・現世で夏子の子供(眞人の異母兄弟)が登場するシーン

 上記のシーンについてはどなたも展開に疑問を感じることはないはずです。しかし、これ以外はストーリーと関係のない宮崎監督の私的なメッセージに関わるシーンです。

・眞人が自傷行為を行い、首尾よく通学を免れるシーン
・ペリカンがワラワラを食べるシーン
・瀕死のペリカンがワラワラを食べざるを得ない理由を告白するシーン
・石の世界の真実を大叔父から聞かされるシーン
・石の世界と自分の悪を知る眞人が積み木を受け取らず、世界の継承を拒むシーン
・帝国を維持したいインコ王が勝手に石を積んで世界を崩壊させるシーン
・石の世界から大量のインコが飛び去って行くシーン
・石の欠片と記憶を現世に持ち帰るシーン

 パンフレット販売前のため、記憶と当日取ったメモの限りに列挙しましたが、行方不明になった継母を探しに異界に行き、亡き母の愛情を確かめる眞人と、自傷行為や石の世界の継承には「本来的に」なんの関係もないことが分かります。世界の継承に関する要素がなければ、戦時中の描写や眞人の成長にフォーカスした映画になったと思われます。

●まとめ

 本作の疑問点の多くは石の世界に関するメッセージの解釈でしょう。筆者はワラワラやペリカン、インコが何を暗喩しているのか考えがありますが、そこまでの解説をこの記事でするのは流石に野暮かもしれません。これまで宮崎監督の作品に親しんできたファンは、作品を自分なりに解釈してみてはいかがでしょうか。

 2023年2月に本作の試写会が行われた際、その場にいなかった宮崎監督から「おそらく、訳が分からなかったことでしょう。私自身、訳が分からないところがありました」というメッセージが届いたそうです。

 本作は娯楽映画ではなく、宮崎監督の潜在意識が反映された芸術作品に該当する映画だと考えられます。芸術は言語を超えた表現なので明確な答えはありません。そこから何を受け取るかは視聴者次第なのです。

(レトロ@長谷部 耕平)

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