『ゴジラ』の芹沢博士と「原爆の父」には共通点が? 戦争に翻弄された科学者たち
軍事開発競争の犠牲者となった科学者たち

芹沢博士は自分が開発した「オキシジェン・デストロイヤー」が軍事利用されることを危惧し、ゴジラと運命をともにします。この芹沢博士と共通点があることが指摘されている実在の人物がいます。米国の理論物理学者で、「原爆の父」と呼ばれたロバート・オッペンハイマー(1904年~1967年)です。
2019年に刊行された『アメリカ人の見たゴジラ 日本人の見たゴジラ』(大阪大学出版会)に、芹沢博士とオッペンハイマーとの類似性についての記述があります。
芹沢博士は「オキシジェン・デストロイヤー」を開発し、みずからの手で封印することになります。一方のオッペンハイマーは第二次世界大戦の早期終結のために「マンハッタン計画」の責任者を務め、世界初となる原爆の開発に成功します。戦争を勝利に導いた英雄としてもてはやされたオッペンハイマーですが、終戦後は水爆開発への協力を拒み、そのことからトルーマン大統領や軍の権力者たちから疎まれ、科学者としての生命を失うことになります。
終わりのない軍事開発競争の犠牲者になったという点で、芹沢博士とオッペンハイマーは通じるものがあるわけです。オッペンハイマーが公職追放されたのは1954年4月。同年11月に、第1作『ゴジラ』は公開されています。
日本での公開が決まらない映画『オッペンハイマー』
オッペンハイマーの波乱に満ちた生涯を、クリストファー・ノーラン監督が映画化した『オッペンハイマー』は、2023年7月に米国で公開され、世界各国で大ヒットを記録しました。11月21日(火)には米国で早くもソフト版がリリースされますが、残念なことに日本では劇場公開の予定がまだ発表されていません。
日本での『オッペンハイマー』の劇場公開がなかなか決まらない要因として、日本人と米国人との原爆に対する認識の違いが大きくあるようです。米国では「戦争を早く終わらせるために、原爆の投下は必要だった」という声があります。被爆国として広島や長崎の惨劇を知る日本人は、民間人を大量殺戮し、後遺症が残り続ける核兵器の使用を肯定することはできません。
そうした歴史認識の違いを知る上でも、『オッペンハイマー』は日本でも劇場公開してほしいと思います。また、『ゴジラ-1.0』は観たけれど、まだ『ゴジラ』の第1作は観ていないという方は、これからでもぜひご覧になってください。『ゴジラ-1.0』でオマージュされた名シーンの数々に加え、戦争や大量破壊兵器の恐ろしさ、そしてゴジラの悲劇性をより実感することができるはずです。
(長野辰次)