劇場版でカットされた『ガンダム』8話「戦場は荒野」とは うごめく人間模様を見事に描く
『機動戦士ガンダム』第8話「戦場は荒野」はジオン兵と避難民が互いに助け合うエピソードが描かれるなど、戦場での人間模様が描かれた珠玉のエピソードです。劇場化の際にはカットされましたがストーリー面での評価は高く、特にラストは戦争が地球にもたらした影響のすさまじさを伝える、重要なシーンとなっています。
ジオンの追撃を受けるホワイトベース隊

『機動戦士ガンダム』第8話「戦場は荒野」は、劇場版『ガンダム』ではカットされてしまったストーリーですが、ジオン兵と避難民が互いに助け合うシーンが描かれるなど、戦場での人間模様が描かれた珠玉のエピソードです。
ジオン軍の勢力下にある北米地域へと降下したホワイトベース隊は追撃部隊を振り切ることができず、ガルマ・ザビ旗下の部隊による追撃を受けていました。しかもこのときホワイトベース隊には地球降下の際に撃沈されたサラミスの艦長リード大尉(中尉)が乗艦しており、ブライトより階級が上のため臨時のホワイトベース指揮官となっていたのです。
しかし事実上の指揮を執っていたのはブライトであり、指揮権の混乱を招いていました。加えて訓練を受けていない民間人が度重なる戦闘を切り抜けてきたため疲労もたまり、状況は悪化の一途をたどっていたのです。
それでもなんとかジオンの追撃を振り切ろうと作戦を練っていたところに、避難民の一団が「ここで降ろしてほしい」と申し出てきます。そのなかのひとり、ペルシアという女性は近隣にあるセント・アンジュという街が夫の故郷であり、子供をそこで育てたいと訴えました。リード大尉は戦闘中に勝手なことを言い出した避難民に腹を立てましたが、ブライトはジオン軍に一時休戦を申し込む口実として避難民を利用しようと提案します。
避難民を降ろすためのガンペリーにガンダムを搭載し、ジオン軍に思わぬ方向から奇襲攻撃をかけることにしたのです。
予期せぬ一時休戦にジオン側も戸惑いましたが、シャアは休戦中に足の遅いマゼラアタックなどの陸上兵器を展開するようにガルマに提案、「これなら必ず勝てる」と喜ぶガルマに対し、「これで勝てねば貴様は無能だ」と心中であざ笑いました。ジオン側の内情も決して良くはなかったのです。
避難民を降ろす口実をもとに、両勢力が保有する武器を最大限生かす戦術的な機動を行なう。これは『ガンダム』以前には見られなかった非常にリアルなストーリーであり、『ガンダム』の価値と存在を今なお際立たせる革新的な展開だったと言えるでしょう。