禁断映画『ムカデ人間』『あくまのくまさん』を配給・宣伝した「伝説の男」叶井俊太郎の功績
人気児童文学を陵辱した『プー あくまのくまさん』

スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが「こんなプーさん、見たくなかった。」とコメントを寄せたのは、叶井氏が宣伝プロデュースを担当した英国映画『プー あくまのくまさん』(2023年)です。
ディズニーでアニメ化もされた英国の有名児童文学『くまのプーさん』をホラー映画化したもので、大人になったロビン少年と野生化したプーさんが悲劇的に再会する物語となっています。ハチミツではなく血まみれ状態になったプーさんの造形が、あまりにも不気味です。
叶井氏は2022年6月に、医師から「末期の膵臓がんで余命半年」と宣告されていました。それでも叶井氏は仕事を休むことなく、多忙な鈴木プロデューサーに対し「僕もうすぐ死ぬんで、お願いします!」と頼み込み、先述のコメントをもらうことに成功しています。その甲斐もあって、『プー あくまのくまさん』は日本だけで興収1億2000万円のヒットとなりました。
さらに叶井氏は、日本の昔話をホラー映画化した『恐解釈 花咲か爺さん』『恐解釈 桃太郎』(ともに2023年)まで制作・配給しています。『恐解釈 桃太郎』を撮った鳴瀬聖人監督には「エンドロールに、『叶井俊太郎に捧ぐ』と入れてよ」と明るく頼み、実現させています。あたかも生前葬を、本人が楽しんでいるかのようでした。
意外? 爽やかな青春映画『キラーカブトガニ』
悪趣味映画ばかり配給していた印象のある叶井氏ですが、動物パニック映画『キラーカブトガニ』(2021年)は、思いのほか爽やかな青春映画で、予想外のヒット作となりました。
廃炉化した原子力発電所から漏れ出した放射能によって、カブトガニたちが凶暴化し、ダンスパーティーを開催中だった学校を襲撃します。低予算のコメディホラーながら、体に障害を持つ主人公が仲間と一緒に戦うなかで、たくましく成長する姿が描かれています。
2023年12月に渋谷で開催された「第1回東京国際叶井俊太郎映画祭」でも、叶井氏のトークショー付きで上映されました。
2024年1月に公開されたばかりの永井豪原案、光武蔵人監督のSFアクション映画『唐獅子仮面 LION-GIRL』、坂本浩一監督のSF時代劇『妖獣奇譚 ニンジャVSシャーク』(2023年)も、特撮マニアを満足させる熱い作品になっていました。
ベストセラーとなった最後の対談集『エンドロール! 末期がんになった叶井俊太郎と文化人15人の“余命半年”論』(サイゾー社)のなかで、叶井氏は「余命半年と言われ、この世にまったく未練がないなと思った」とカラッと語っています。
抗がん剤などの延命治療は選ばず、叶井氏は亡くなる直前まで映画の配給・宣伝業務を続けました。叶井氏が企画・配給した映画は、これからも公開される予定です。叶井俊太郎氏が映画界に残した伝説は、まだまだ続くことになりそうです。
(長野辰次)




