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今夜の金ロー『思い出のマーニー』 従来の「ジブリ」とは異なるヒロイン像

マーニーは孤独な子供に寄り添う存在

『思い出のマーニー サントラ音楽集』(徳間ジャパンコミュニケーションズ)
『思い出のマーニー サントラ音楽集』(徳間ジャパンコミュニケーションズ)

 杏奈はマーニーと一緒に過ごすことで、恵まれた生活を送っているように見える彼女の意外な一面を知るようになります。パーティーでは美しいドレスで着飾り、優雅なダンスを披露してみせるマーニーですが、実は彼女も杏奈と同様の「さびしんぼう」だったのです。両親は屋敷を留守にすることが多く、その穴埋めにパーティーを開いたり、ドレスを用意したりしていたのです。マーニーは「普通の生活」を望んでいました。マーニーが愛情に飢えていることに気づき、杏奈はより深いつながりを感じるようになるのです。

 それにしても美少女マーニーは、何者なのでしょうか。映画では最後にマーニーの秘密が明かされることになりますが、誰しも少年少女時代には空想上の友達、イマジナリーフレンドを持っていたのではないでしょうか。心のなかに理想の友達を創り出し、想像の世界で一緒に冒険した経験をした人も少なくないと思います。『思い出のマーニー』を観ていると、子供の頃に夢中になって遊んでいたイマジナリーフレンドのことが思い出されます。現実世界に実在する友達ではないものの、寂しかった少年少女時代の孤独感を和らげてくれた大切な存在です。

『アンネの日記』で有名なアンネ・フランクリンは、空想上の親友キティーに毎日手紙を送るという形で日記を書き続けました。親友キティーが心の支えとなり、ナチスドイツによるユダヤ人狩りの恐怖にアンネは耐えたのです。大林宣彦監督が故郷・尾道を舞台にして撮影したファンタジー映画『さびしんぼう』(1985年)も、一種のイマジナリーフレンドを扱ったものです。マーニーがイマジナリーフレンドなのかどうかは、映画を最後までご覧になって確かめてください。

米林監督も勇気をもらった?

 米林監督は『思い出のマーニー』を完成させ、スタジオジブリから独立することを決意します。2014年12月をもって、スタジオジブリ自体も制作部門を休止。米林監督は『借りぐらしのアリエッティ』『思い出のマーニー』でタッグを組んだ西村義明プロデューサーと「スタジオポノック」を設立することになります。

 それまでのスタジオジブリとはカラーの異なる『思い出のマーニー』を作り上げたことが自信となり、米林監督は外の世界へと歩いていく勇気を得たのではないでしょうか。スタジオジブリ出身であることから、「ポスト宮崎駿」のひとりに挙げられることのある米林監督ですが、『思い出のマーニー』のようなジブリっぽくない独自路線をぜひ今後も進んで欲しいと思います。

 みんな忘れてしまっているだけで、実は誰もがマーニー的な存在に支えられ、今も見守られているのかもしれません。

(長野辰次)

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