『ウルトラセブン』ラスボスなのに「影薄っ!」 「揚げ物」と揶揄される不遇怪獣
『ウルトラセブン』の最終2話に登場するパンドン。ラスボスながらその影が薄く感じられるのはなぜでしょうか?
実は「不本意」だったあのデザイン……本当はどんな姿だった?
揚げ物を見かけるたび、あのどこか不遇な怪獣を思い出さずにはいられません。
……そうです。「双頭怪獣パンドン」です。『ウルトラセブン』第48話「史上最大の侵略(前編)」、第49話「史上最大の侵略(後編)」と傑作『セブン』の最終話に登場した怪獣であり、ラスボスという誉(ほまれ)高いポジションにいながらもなお、どこか哀愁の漂う怪獣であります。
やはりどこか陰があるような、あるいは影が薄いような……ときにその特異なビジュアルから「揚げ物」など不名誉ないじられ方をされて久しいパンドンでありますが、なにゆえに今のような不遇をかこつ結果となったのでしょうか。
まず実際に現在のパンドンの人気について確認しましょう。2022年に発表されたNHK「全ウルトラマン大投票」の「ウルトラ怪獣」部門において、前作『ウルトラマン』のラスボスである「宇宙恐竜ゼットン」の順位は堂々1位なのに対し、パンドンの順位は……169位。「改造パンドン」にいたっては184位と、なかなか慰め甲斐のある位置につけています。改造されてでも頑張ったというのにまったく気の毒です。
この不遇ぶりに関しては長年、ファンの間でも議論されてきたところではありますが、まずその理由として挙げられるのが「ビジュアル」でしょうか。
ファンからしても、眺めれば眺めるほど、なんだかビールを頼みたくなる容姿をしています。揚げ物感は否めません。「双頭怪獣」という別名を持ちながら、頭部の左右からくちばしが突き出した姿は、シリーズ屈指の異形の持ち主です。この異形こそパンドンの魅力なのですが、これは制作側からすれば、不本意の姿だったのです。
というのも池谷仙克さんのデザイン画の時点では鋭い眼光とくちばしをもつ、文字通り双頭の怪獣として登場する予定だったのです。造形担当の高山良策さんも、当初はデザイン画と同じく双頭のパンドンの着ぐるみを造られていました。
ところが、これがどうにも不都合があったらしく、結果としてわたしたちの知るパンドンへと修復されたのでした。後年になり『平成ウルトラセブン」では、この初期デザインをもとにしたネオパンドンが登場したのです。「これが本当の君だったのか……」という感慨もありつつ、慣れ親しんだパンドンが消えていくような寂しさがありました。
また「強さ」の面においてはどうだったでしょうか。劇中の活躍ぶりはご存じの通りで、ウルトラセブンが放ったアイスラッガーを叩き落としたり、はたまた改造後は投げ返したりなど、ラスボス然とした強さを見せつけます。ただし、このときのセブンは歴戦のダメージで満足に戦えぬほど衰弱している状態であったため、物語の要請としても「弱っているセブン」が引き立つ結果となったのです。
さて、ここまでを踏まえて改めてパンドンの不遇ぶりを考えてみると、その最大の理由は「ラスボス」であったことかもしれません。ラスボスだからこそ、ゼットンをはじめとする歴代ラスボスらと比べて不遇と思われてしまうのですから。
パンドンの名誉のためにひとつ付け加えるとすれば『ウルトラセブン』の主題歌に「倒せ火を吐く大怪獣」とありますが『セブン』に登場する「怪獣」(キュラソ星人など宇宙人を除く)のなかで火を吐く怪獣はパンドンのみ。つまり『セブン』という物語は最初からパンドンの登場を待っていたのです。
(片野)