『AKIRA』をジャパニメーションの金字塔に持ち上げた、アメリカ非公式のネットワークとは
『AKIRA』のテーマを体現した非公式のネットワーク

しかし、興行的な成績は、その革新的な内容にふさわしいものではありませんでした。日本のアニメが海外でまだ浸透していない時代だったこともあり、『AKIRA』の公開規模は大都市のごく一部の劇場に限定され、Box Office Mojoによれば興行収入およそ44万ドル(当時のレートでおよそ5500万円)、最高位19位という結果に終わります(日本でも、公開当時の配給収入はおよそ7億5000万円と、10億円と報じられた制作費を補えるものではありませんでした)。
ここで終われば『AKIRA』は、一部のマニア好みのカルト映画に留まっていたかもしれません。しかし薬物を摂取した鉄雄が超能力で暴走したように、『AKIRA』により生まれた衝動をおさめることのできない者たちが、ある行動に移ります。
彼らは、日本ですでに発売していた公式なビデオや海賊版を用い、上映会を行ったのです。斬新なカルチャーに飢えていた若者たちを中心とした動きは各地に広がっていきました。噂を聞いたファンの間で、ダビングされたビデオの貸し借りも盛んに行われ、インターネットも普及していない時代に、ひとつのネットワークを作り上げていきました。
こうした非公式ながらも草の根的なネットワークの勢いに脅威を感じた、公式の配給会社であるストリームライン・ピクチャーズは、公式なビデオの発売にあたって、実際に使用したセル画やアニメの素材を特典にしたそうです。
その甲斐あってか、アメリカでの公式なビデオソフトも合計10万本を超えるヒットとなり、『AKIRA』は名実ともにジャパニメーションの金字塔とりました。いわばアメリカでの『AKIRA』人気は、現地のファンが自分たちで勝ち得た評価でもあるのです。
こうしたアメリカでの最初の劇場公開からビデオ発売までのファンの動きは、アキラの覚醒を目の当たりにした金田たちがネオ東京に向けて走り出した姿に重なります。劇場版『AKIRA』のテーマは、”破壊の後の再生への願い”だそうですが、彼らはまさにそうしたテーマを体現しているように思えてなりません。
(倉田雅弘)