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ゲルググやジムなど「先行量産型」が作られたワケ なぜ「量産型」とは区別されるの?

「ガンダム」シリーズには時折、「先行量産型」とされるモビルスーツが登場し、そして後に続く「量産型」より高性能であるケースが多いようです。なぜ先行量産型そのまま量産へ移行しないのか、もちろん単に早期に作られただけではないからです。

なんとなく高性能なイメージがありますけど…?

おなじみ「シャア専用ゲルググ」は、先行量産された25機のうちの1機。「HG 1/144 シャア専用ゲルググ」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ
おなじみ「シャア専用ゲルググ」は、先行量産された25機のうちの1機。「HG 1/144 シャア専用ゲルググ」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ

 アニメ『機動戦士ガンダム』シリーズに登場するモビルスーツには、「先行量産型」と呼ばれるカテゴリーが存在します。「ジム」「ボール」「ゲルググ」といった機体には、正式な量産に入る前に少数が製造され、その性能を評価するための「先行量産型」という派生型が設定されているようです。この概念はフィクションのなかだけのものではなく、実際の航空・軍事技術においても重要な役割を果たしています。

 航空機の世界で「低率初期生産(LRIP:Low Rate Initial Production)」と呼ばれる段階は、これに相当するものです。完全な本格量産に移行する前に、比較的少数の機体を生産し、技術的課題の洗い出し、製造ラインの確立、部隊への初期配備などを目的としたプロセスになります。理論的には「低率」、つまり小規模な生産とされますが、現在量産中のF-35の場合は、その常識を覆す規模で行われました。

 F-35「ライトニングII」は、アメリカを中心に開発された第5世代戦闘機であり、ステルス性能、ネットワーク中心の戦闘能力、マルチロール性を兼ね備えた最新鋭機です。開発当初から各国が参加し、極めて大規模なプログラムとなったため、その生産規模は異例ともいえるものになります。

 F-35の低率初期生産は2007年から始まり、最初の第1ロットの発注数はわずか2機でした。これはいわゆる「試作機」に相当する「生産技術開発機(EMD)」です。そして低率初期生産は2025年までの18年間にわたり続きました。この間に生産された機体は約1000機に達し、これは従来の航空機開発における「低率」とは到底、言えない数字であり、実質的には本格量産と変わらないペースになります。

 なぜこれほどの規模で生産されたのでしょうか。その最大の理由は開発、より具体的には評価試験の遅延にありました。そのために当初、予定されていた作戦能力を満たさない限定的な能力を持ったソフトウェアで動作するタイプの実用化が行われ、配備を前倒ししたのです。こうしてLRIP段階での生産数が急増し、通常の「低率」の枠を大きく超えてしまいました。

 アメリカ2026会計年度から、F-35プログラムはようやく「全規模生産(FRP:Full Rate Production)」の段階へと移行します。これは生産体制が完全に成熟し、年間生産数が安定的に最大化されるフェーズです。F-35の場合、年間150機以上が生産されることになりますが、実のところ低率初期生産での生産数ピークは年産145機(2023年第15ロット)でしたので、低率初期生産と全規模生産の違いはほとんど名目だけの変化にとどまります。

 いずれにせよF-35は、最終的には全世界で3000機以上が配備される見通しであり、発注数は今後さらに増えると考えられるため、F-35の生産は始まったばかりであえるといえます。この数は、21世紀における最多生産戦闘機となる可能性が高く、F-16「ファイティングファルコン」(4500機以上、現在も生産中)やF-4「ファントムII」(5000機以上)に匹敵する規模の生産体制が築かれつつあります。

(関賢太郎)

【画像】並べるとだいぶ違うな…ジムの先行量産型と量産型を見比べる

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