マグミクス | manga * anime * game

『ガンダム』一部で話題「有線ミサイル」 これがリアル寄りな描写といえるワケ

シリーズ新作『ジークアクス』により、オリジナルの『機動戦士ガンダム』にも注目が集まる昨今、その第1話の戦闘の様子が一部で話題となっていました。いわく、ミサイルにワイヤー状のものがついていたとか。実はこれ、結構リアル寄りな描写です。

飛んでくミサイルになんかついてた!

アムロがガンダムのマニュアルを入手する直前など、有線ミサイルが飛び交う様子は劇場版でも確認できる。画像は劇場版『機動戦士ガンダム I』ポスタービジュアル (C)創通・サンライズ
アムロがガンダムのマニュアルを入手する直前など、有線ミサイルが飛び交う様子は劇場版でも確認できる。画像は劇場版『機動戦士ガンダム I』ポスタービジュアル (C)創通・サンライズ

『機動戦士ガンダム』第1話における戦闘では、地上車両から発射されたミサイルに、細いワイヤーのようなものが尾を引いている場面があります。この描写は、2025年4月に放送された『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』第2話において再び登場し、戦術考証好きな視聴者のあいだで静かな注目を集めているようです。

 ミサイルの尾に連なるその「コード」が示唆するのは、有線誘導による制御機構である可能性が高いということです。いささか古典的とも思える誘導方式ではありますが、実のところ、この技術は「電波の無効化」を前提とした宇宙世紀の戦術環境において、極めて合理的かつ効果的な手段として位置づけられるといえます。

 宇宙世紀を舞台とするガンダムシリーズにおいては、架空の物質「ミノフスキー粒子」の存在が重要な戦術的要素として設定されています。これは通信電波やレーダー波を遮断する性質を持ち、従来の遠隔制御兵器を無力化するものです。このため、視認距離内での交戦、すなわちモビルスーツによる近接戦闘が常態化するという背景に繋がっています。

 このような環境において、有線誘導という技術的選択はむしろ必然であるといえるでしょう。電波に依存せず、確実に信号を伝送できる物理的な媒体、すなわち「線」によって制御されるミサイルは、ミノフスキー粒子による電子妨害の影響を受けずに、誘導が可能であると考えられます。

 この有線誘導ミサイル、実は現実世界においても、すでに半世紀以上の歴史を持つ技術です。もっとも代表的な例は、アメリカ製の「TOW」対戦車ミサイルでしょう。1960年代末に実用化されたこの兵器は、今日に至るまで世界各国の軍隊で広く運用されており、日本の陸上自衛隊においても、AH-1S「コブラ」攻撃ヘリコプターに搭載されています。

 また、日本国内で開発された装備としては「96式多目的誘導弾システム」があります。このシステムでは、光ファイバーを用いた有線誘導により、発射後も弾頭からのリアルタイム映像を取得しつつ、精密な目標修正を行うことが可能です。

 前時代的にさえ思える有線誘導技術ですが、21世紀の現在、最前線において復権しつつあるようです。ロシアによるウクライナ侵攻を受けて展開されている戦闘では、電波による通信やGPS信号への妨害(ジャミング)が深刻な戦術的問題として浮上しています。これに対抗する形で、ウクライナ軍やロシア軍で注目されているのが、有線誘導型のドローンです。

 有線誘導ドローンは文字通り線でつながれた状態で運用されます。不便にも思える方式ではありますが、実際には極めて高い妨害耐性と秘匿性を備えており、また光ファイバーを利用することで、遅延のない高精細な映像伝送も可能となっています。すでに戦場では、使用済みの光ファイバーケーブルが地面に幾重にも散乱しているという証拠も存在します。

 このように、有線誘導兵器は「古き技術」ではあっても、「過ぎ去った技術」では決してありません。むしろ電子戦の激化する現代、あるいはミノフスキー粒子という状況が支配する戦場においてこそ、その真価を発揮するものであるといえるのではないでしょうか。テクノロジーの進歩とは、必ずしも「新しさ」を追うことではなく「古びた確実さ」を選び取ることもあり得るという点で興味深いといえます。

(関賢太郎)

【画像】確かにワイヤーついてるな…こちらがリアルで現役の「有線誘導ミサイル」です

画像ギャラリー