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金ロー『借りぐらしのアリエッティ』 ミニチュア化された宮崎駿ワールド

「借りぐらし」を実践してみせた米林監督

 1973年生まれの米林監督は、スタジオジブリの歴代監督としては最年少での監督デビューでした。いかにもスタジオジブリらしい作品に仕上げていますが、改めて作品を見直すと遊び心をいろいろと織り込んでいることに気付きます。

 アリエッティがダンゴ虫たちと戯れるシーンがありますが、ダンゴ虫がもぞもぞと動くシーンは『風の谷のナウシカ』(1984年)の巨大生物オームを思わせます。現在、宮崎駿氏の監督デビュー作『未来少年コナン』(NHK総合)が日曜深夜に再放送中ですが、『借りぐらしのアリエッティ』に登場する小人の男の子スピラー(CV:藤原竜也)は、『未来少年コナン』の野生児・ジムシーによく似ています。

 翔が暮らす屋敷では、猫のニーヤを飼っています。小さなアリエッティから見れば、猫のニーヤはとても大きな猛獣として映っているはずです。人間の言語を理解する『もののけ姫』(1997年)の犬神か、『となりのトトロ』(1988年)のネコバスのようです。物語序盤、ポッドとアリエッティがこっそり角砂糖をいただくシーンは、『ルパン三世』(日本テレビ系)を彷彿させます。

 一歩引いた目線で『借りぐらしのアリエッティ』を眺めてみると、新人監督である米林監督はスタジオジブリを支えてきたアニメ界の大巨人・宮崎駿氏のこれまでの代表作の数々をミニチュア化して描いていることが分かります。企画・脚本を担当した宮崎駿氏の手のひらの上で、米林監督は思いきって遊んでいるかのようです。まさに米林監督は、スタジオジブリと宮崎駿というブランド力を巧みに「借りぐらし」して、デビュー作を完成させたのです。

スタジオジブリにはなかった「萌え」要素

 もうひとつ注目すべき点は、『借りぐらしのアリエッティ』には他のスタジオジブリ作品では消されている「萌え」要素が感じられることです。翔の手のひらにアリエッティが乗り、腕を伝って肩に乗るシーン、翔の差し出した指にアリエッティが触れるシーンは、ほんのりとした萌えを感じさせます。

 体の大きな女性に抱くフェティッシュな感情のことを「ジャイアンテス」と呼びますが、『借りぐらしのアリエッティ』の場合はその逆のパターンです。体が小さくなった女の子(シュリンカー)をヒロインにした、内田春菊さん原作コミック『南くんの恋人』は、これまでに何度も実写ドラマ化されています。

 あからさまにフェティッシさを押し出すのではなく、あくまでも上品に描いているところが、『借りぐらしのアリエッティ』が大ヒットした要因ではないでしょうか。もちろん、借りぐらし一族は、圧政や環境破壊によって居場所を失いつつある少数民族や希少動物たちと重ね合わせることもできます。社会学的にも、フェティッシュ的にも鑑賞することができる、多重構造の作品だと言えるでしょう。

 大ヒットでデビュー作を飾った米林監督は、スタジオジブリらしくない自己中なヒロインを描いた『思い出のマーニー』(2014年)を続いて監督し、その後スタジオジブリから独立します。米林監督には、ジブリの亜流ではなく、宮崎駿作品とは異なるフェティッシュさを感じさせる独自路線をぜひ突き進んでほしいと思います。

(長野辰次)

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