日米最強怪獣決戦『ゴジラVSコング』、今回は「ドロー判定」では済まされない?
勝敗以上に注目すべき、ゴジラとコングのテーマ性

日本人は放射熱線を吐くゴジラのほうが強いだろうと思いがちですが、米国人にとってキングコングは特別な存在です。日本人にとって、ゴジラは巨大な爬虫類ではありません。同じように米国人にとっては、キングコングはただの巨大な猿ではないのです。
世界恐慌のなかで公開された『キング・コング』(1933年)は、米国人にとってはメモリアルな特撮映画となっています。ストップモーション・アニメーションの先駆者ウィリス・オブライエンによって生命を宿したキングコングに、誰もが目を見張りました。南洋の楽園で暮らすコングは、文明に毒されることなく大きく育ったイノセントな少年のような存在です。
野生児であるコングは強引に文明社会に引きずり出され、ひとりの白人美女に恋をしたために命を落とすことになるのです。コングは美女との愛を貫こうとした純粋なロマンチストであり、そんなイノセントさの象徴が近代文明によって破滅させられるという神話的な寓話として米国人の心に刻まれているのです。
一方、戦争経験者である本多猪四郎監督が、円谷英二特技監督らと生み出した『ゴジラ』(1954年)には、太平洋戦争でもしも日本が本土決戦を行なっていたら……、もしも東京に核兵器が落とされていたら……、大戦中の悪夢を再現したかのような恐怖と迫力が込められていました。日本人にとってゴジラはただの怪獣ではなく、戦争や核兵器のメタファーでもあるのです。
人気モンスター同士が激突する『ゴジラVSコング』は、どちらが強いのかといった勝敗以上に、「イノセントさの喪失」「核の恐怖」といったそれぞれのテーマ性を、どちらがより強くアピールできるかが重視されるように思います。仮にどちらかが対戦に敗れても、自身のアイデンティティーをはっきりと打ち出すことができれば、ファンに称賛されるのではないでしょうか。
芹沢博士の息子が物語の行方を左右する?
予告編を見ると、コングが小さな少女と指を触れ合わせるシーンが映し出されています。スティーブン・スピルバーグ監督のSF映画『E.T.』(1982年)を思わせます。『E.T.』はそれまでは地球人に対して好戦的に描かれることが多かった宇宙人を友好的に描いた画期的な作品でした。
ゴジラが吐く熱線を、コングは道具を使って防御するシーンも予告編で流れています。コングが道具を手にした戦う姿は、スタンリー・キューブリック監督の名作SF映画『2001年宇宙の旅』(1968年)を彷彿させます。
ハリウッドデビューを飾る小栗旬さんは、前作『キング・オブ・モンスター』で殉職した芹沢猪四郎博士(渡辺謙)の息子・芹沢レンを演じるようです。予告編の小栗さん登場シーンでは、背後にあるモニターに巨大ロボットらしきものが映し出されています。『ゴジラ対メカゴジラ』(1974年)で初登場した人気ロボット・メカゴジラも参戦するとなると、勝敗の行方はますます分かりません。
いずれにしろ、『ゴジラVSコング』はモンスター映画だけでなく、過去のさまざまな特撮映画を総括した壮大なオマージュ作品となりそうです。映画館で大好きなモンスターたちを応援できる日が訪れることを、今から楽しみにしたいと思います。
(長野辰次)