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映像化不可能とされた『宮本から君へ』実写化はなぜ成功?重要だった「敵キャラ」の演技

難航した敵キャラ俳優のキャスティング

涙を流す靖子が描かれる、原作マンガ『定本 宮本から君へ』第2巻(太田出版)
涙を流す靖子が描かれる、原作マンガ『定本 宮本から君へ』第2巻(太田出版)

 若手演技派俳優として活躍する池松壮亮さんは、日大藝術学部映画学科を卒業して間もない頃に、マンガ『宮本から君へ』を読んでいます。大学を出たばかりの宮本が社会で悪戦苦闘する姿は、他人事とは思えなかったと語っています。そんなときに偶然にも、実写版『宮本から君へ』の主演オファーが届いたので、池松さんはびっくりしたそうです。

 実写化が具体的に動き出すまで時間を要しましたが、まず原作の前半部分である「サラリーマン奮闘編」がテレビ東京系で深夜ドラマ化されます。頭を丸めた池松さんの宮本へのなりきりぶりは、話題を呼びました。それでも、ハードなエピソードの多い原作の後半部分を描く劇場版の企画は、なかなか前には進みませんでした。

 やはり映画化は無理かと思われた矢先、同じ新井氏原作の実写映画『愛しのアイリーン』(2018年)を手掛けた映画会社「スターサンズ」が制作・配給することで、ようやく劇場版は動き始めます。新井氏がTVドラマ版で見せた池松さんの熱演ぶり、真利子哲也監督の実直な演出を高く評価していたことも、映画化を後押ししました。

 劇場版のキーパーソンとなるのは、真淵拓馬です。腕力では誰も抵抗できない拓馬役にぴったりなキャストを見つけるのも難航しました。拓馬はラガーマンの風上に置けないような卑劣漢です。プロレスラーに出演交渉したものの、イメージが悪くなるからと断られたそうです。そんな中でオーディションを受け、「撮影までに体重を30キロ増やす」と約束したのが、格闘技経験のある俳優・一ノ瀬ワタルさんでした。

 宮本と拓馬がマンション高層階の非常階段で激突する危険なシーンも、池松さんと一ノ瀬さん本人が演じています。原作をリスペクトする両キャストの狂気に近いものを感じさせる、見逃せないシーンとなっています。

俳優とキャラとの心理がシンクロしたラスト

 人気マンガの場面やセリフをそのまま再現すれば、面白い映画になるのかといえば、そう簡単ではありません。新井氏が20代の頃に描いた『宮本から君へ』の宮本と靖子は、大変な熱量を放っています。それを演じるキャストはそれと同等以上のエネルギーを費やさなくては、役になりきることはできません。さらに実写映画ならではのリアリティを持たせる必要もあります。マンガという二次元の世界と現実世界との仲介役も、俳優は務めなくてはならないのです。

 池松さんと蒼井さんはどちらも福岡出身で、特撮映画『鉄人28号』(2005年)や時代劇『斬、』(2018年)などで共演し、お互いの実力を認め合う関係です。手の合うプロレスラー同士が名勝負を繰り広げるように、池松さんと蒼井さんもバチバチな恋愛バトルを演じてみせます。プロの俳優とスタッフたちが、自分らが持つ情熱やノウハウを惜しみなく役と作品に注ぎ込み、それらが現場でスパークすることで、原作マンガは実写映画への昇華を果たすのではないでしょうか。

 また、池松さんと蒼井さんは、原作マンガの持っていたメッセージ性を深いところまできっちりと理解して、現場に臨んでいます。新井氏の描いた原作マンガは、宮本が拓馬に復讐を遂げてハッピーエンドとなる物語ではありません。暴力に暴力で応じても、暴力で傷ついた靖子の心の傷は決して癒されないのです。

 ラストシーン、池松さん演じる宮本の無茶苦茶だけど熱い愛のこもった言葉と表情に、靖子役の蒼井さんは自然と涙があふれ出たそうです。それはボロボロに傷ついた靖子が、救いを感じた瞬間でもありました。俳優とキャラクターとの心理が現場で見事にシンクロした形で、映画『宮本から君へ』はエンディングを迎えます。熱い原作マンガに、それ以上の熱さで応えた実写映画として、『宮本から君へ』は忘れられない作品になりそうです。

(長野辰次)

【画像】池松壮亮さんの熱演がすごい、映画作品たち(6枚)

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