異色コメディ『大怪獣のあとしまつ』には社会風刺も 巨大な「ゴミ」に翻弄される人びと
従来の物差しでは測れないものに、どう向き合う?

三木聡監督の人気作『時効警察』は、すでに時効となっている過去の未解決事件を警察官の霧山修一朗(オダギリジョー)が趣味で解明するというミステリーコメディでした。世間が忘れてしまったものに対し、霧山は他にはない価値観を見出して、その謎を解き明かします。その結果、従来のミステリー作品にはなかった、おかしみやせつなさを『時効警察』は引き出すことに成功しました。
三木監督がこれまでに撮ったコメディ映画『亀は意外と速く泳ぐ』(2005年)や『インスタント沼』(2009年)なども、世間からは無意味とされているものに愛情を注ぐ主人公たちの物語でした。怪獣はそもそも人間の常識から外れた存在ですが、しかも死んでしまっているので物語的にもまったくの無意味の極みです。
そんな無用の長物をめぐって、登場キャラクターたちは右往左往するのでした。従来の物差しでは測れないものに、三木聡作品の主人公たちは向き合うことになるのです。
仰向けに倒れた大怪獣の死体は、廃炉化作業が続く福島第一原発にも思えますし、バブル崩壊から立ち直ることができず、機能不全状態に陥っている日本社会そのもののようにも感じられます。三木聡作品としては珍しく、社会風刺的な視線も感じさせます。
「デウス・エクス・マキナ」に依存する日本人
本作を楽しむ上で、覚えておきたいキーワードとなるのが「デウス・エクス・マキナ」という言葉です。古代ギリシアで上演されていた演劇では、物語の収拾がつかなくなった局面に機械仕掛けの神さまが登場し、力技で終幕させるという手法が使われたそうです。機械仕掛けの神さま=デウス・エクス・マキナです。
この機械仕掛けの神さまは、作劇する上では非常に便利な存在で、かの天才劇作家のシェイクスピアも『真夏の夜の夢』などでこの手法を使っています。しかし、作り手側のご都合主義による安易なエンディングとしても批判されがちです。
当然ですが、現実世界には「デウス・エクス・マキナ」は存在しません。しかし、日本人は長年にわたって「デウス・エクス・マキナ」が現れることを待ち望み続けているのではないでしょうか。太平洋戦争では、「神風」が吹くから日本は絶対に負けることはないと信じられてきました。また、福島第一原発事故の際には、米軍に事故処理を任せようという声もありました。日本人にとっては、神風や米軍が「デウス・エクス・マキナ」的な存在だったと言えます。
特撮ドラマの金字塔である『ウルトラマン』『ウルトラセブン』、東宝の特撮映画『マタンゴ』(1963年)などへのオマージュを、三木聡監督の『大怪獣のあとしまつ』は感じさせます。そして、「デウス・エクス・マキナ」的存在に依存しがちな日本人の国民性についても、チクリと風刺しているように感じます。
悪の秘密結社「ショッカー」の戦闘員になりたがる若者を主人公にした映画の企画も、三木聡監督は提案していたそうです。予算はあまり使わずに済みそうですから、こちらもぜひ実現させてほしいものです。若者たちの生きづらさ、行き場のなさを描いた問題作になるのではないでしょうか。異色コメディを生み出す三木監督のユニークな発想力に注目が集まりそうです。
(長野辰次)
※『大怪獣のあとしまつ』は、2022年2月4日(金)より全国ロードショー。
監督・脚本/三木聡 VFXスーパーバイザー/野口光一 特撮監督/佛田洋 怪獣造形/若狭新一
出演/山田涼介、土屋太鳳、濱田岳、眞島秀和、ふせえり、六角精児、矢柴俊博、有薗芳記、SUMIRE、笠兼三、MEGUMI、岩松了、田中要次、銀粉蝶、嶋田久作、笹野高史、菊地凛子、二階堂ふみ、染谷将太、松重豊、オダギリジョー、西田敏行
配給/東映、松竹
(c)2022「大怪獣のあとしまつ」製作委員会