天才漫画家・永井豪が『ハレンチ学園』で描いた「歴史的な闘い」とは?
主要キャラクターはほぼ全員戦死
永井豪氏はこのときの騒ぎを「これは僕の推測だが、エッチなシーンは『ハレンチ学園』を攻撃する材料に利用されたのだろう。本当は先生たちを原始人の格好にしたり、ギャグにしたりして先生の権威を破壊したのが気に障ったのだ」(『文藝春秋』2005年6月号)と振り返っています。教師は聖職者である、という考えがかつては強かったようです。
しかし、このときPTAや教育委員会からバッシングされた体験が、永井豪作品に大きな影響を与えました。『ハレンチ学園』第一部のクライマックスとなる「ハレンチ大戦争」へと突入することになるのです。
あまりにも破廉恥な「ハレンチ学園」の風紀に怒った「大日本教育センター」の所長は甲冑姿となり、学園への全面戦争を仕掛けるのです。爆撃機によって学園周辺の住宅街を焼け野原にしてから、重火器での無差別攻撃を行うという、狂気の戦争の始まりでした。
この戦いによって、素っ裸で股間に銃をぶら下げていたマカロニ先生をはじめ、人気キャラクターたちが次々と殺されていきます。準主役ともいえるイキドマリもアユちゃんも例外ではありませんでした。
教師も生徒も、敵も味方も関係なく、死体の山が築かれていきます。山岸は手にした銃で、たまたま戦場に来ていた両親を誤って射殺してしまいます。山岸とみつ子は最後まで果敢に戦いますが、学園は完全崩壊し、主要キャラクターはほぼ全員が戦死するという衝撃的な結末でした。
「ハレンチ大戦争」が歴史に残した爪痕
富野由悠季監督の人気アニメ『伝説巨神イデオン』(1980年)や庵野秀明監督の『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』(1997年)も、主要キャラクターのほとんどが戦死を遂げるという壮絶なエンディングが話題となりましたが、マンガの世界では永井豪氏がひと足先に描いていたことになります。作者自らの手で登場キャラクターたちを全滅させることで、物語を完結させたのです。
永井豪氏はその後、『デビルマン』『イヤハヤ南友』『バイオレンスジャック』などでも最終戦争〈ハルマゲドン〉を描くことになります。もし、『ハレンチ学園』を連載していた永井氏が、PTAや教育委員会のクレームを受け入れ、おとなしい作風に軌道修正していたら、「ハレンチ大戦争」は起きず、その後のマンガ界やアニメ界も変わったものになっていたかもしれません。
最後に、ハレンチ大戦争で亡くなったアユちゃんの言葉を紹介したいと思います。
「あたしは…… あたしたちはなぜ殺されるの…… ハレンチ学園はなぜつぶされるの…… 自由に! 自由に生きようとしただけなのに!!」
(長野辰次)
※『画業50年突破記念 永井GO展』は、東京・上野の森美術館(JR上野駅公園口より徒歩3分)で、2019年9月29日(日)まで開催中。開館時間10:00〜17:00(入場は閉館の30分前まで)