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映画『毒娘』押見修造×内藤瑛亮監督対談【後編】 「クソムシ」と呼ばれた体験が覚醒のきっかけ

無意識レベルで女性たちを抑圧している社会構造

心を通わせていくちーちゃん(伊礼姫奈)と萌花(植原星空)
心を通わせていくちーちゃん(伊礼姫奈)と萌花(植原星空)

ーー完成した映画『毒娘』について、最後にひと言お願いします。

押見:大好きな映画です。ちーちゃんの活躍を楽しむホラー映画としても面白いし、抑圧された女性たちが解放されていく物語にもなっていると思うんです。僕もマンガを描く上で、フェミニズムについて学んだりもしました。でも、頭で理解できても、体がついていかない部分があったんです。その点、『毒娘』を観ると、男性である僕も彼女たちの心情を体感できたように感じました。忘れられない映画になったと思います。

内藤:押切蓮介さんのコミックを実写映画化した『ミスミソウ』は、監督のオファーを受けてから撮影まで1か月しかなかったんですが、今回は時間を費やしてじっくりと準備することができました。もちろん予算は限られていましたし、撮影現場はハードだったので俳優のみなさんをケアしながら撮影を進めなくちゃいけなかったんですけど、楽しい現場でしたね。

ーータイトルは『毒娘』ですが、「毒親」についての物語でもある。

内藤:そうですね。女性たちを苦しめている男性や父親たち、もう少し広く言えば、家父長制度などの社会構造についても描いた作品になったと思います。萌花の父親(竹財輝之助)は無意識レベルで女性を抑圧してしまっている。本人はそのことには無自覚で、いい父親、いい夫だと思っている。

 無意識のうちに誰かを抑圧しているところは、僕自身にも言えることなんです。長編デビュー作の『先生を流産させる会』の公開の際、批判を受けました。実際の事件は男子生徒たちが加害者だったのに、女子生徒たちを加害者に変えてしまったからです。「怖い女性」をエンタメとして消費していたというか、そういう認知の歪みがあったことを反省しています。それもあって、今回は女性を無意識のうちに抑圧する男性を描き、彼が報いを受ける結末にしました。

ーーおふたりのコラボ、これからも楽しみにしています。

押見・内藤:また、ぜひやりたいですね。

■内藤瑛亮(ないとう えいすけ)
1982年愛知県生まれ。特別支援学校の教員を務めながら、長編映画『先生を流産させる会』(2011年)を自主製作。教員退職後、『パズル』(2014年)、『ライチ☆光クラブ』(2015年)、『ミスミソウ』(2017年)などの商業映画を監督。実際に起きたいじめ事件を題材にした自主映画『許された子どもたち』(2020年)も反響を呼んだ。

■押見修造(おしみ しゅうぞう)
1981年群馬県生まれ。「別冊少年マガジン」で連載されたマンガ『惡の華』は2019年に実写映画化され、大きな話題となった。他にも『スイートプールサイド』(2014年)、『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(2018年)など、原作マンガが次々と映画化されている。2024年1月から『毒娘』の前日談となる『ちーちゃん』を「週刊ヤングマガジン」にて連載。

映画『毒娘』
監督/内藤瑛亮 ちーちゃんキャラクターデザイン/押見修造
脚本/内藤瑛亮、松久育紀 音楽/有田尚史
出演/佐津川愛美、植原星空、伊礼姫奈、馬渕英里何、凛美、内田慈、クノ真季子、竹財輝之助
配給/クロックワークス

4月5日(金)より新宿バルト9ほか全国公開

(C)『毒娘』製作委員会2024

(長野辰次)

【画像】え…っ? 「怖い」「すごい実在感」 これが押見修造先生がデザインした「ちーちゃん」の姿です(6枚)

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