『すずめの戸締まり』で『魔女宅』の曲が流れる理由 2作の共通点と違いとは
働く女性たちに導かれるキキとすずめ

単純なオマージュにとどまらず、『すずめの戸締まり』は『魔女の宅急便』の物語構成に大きな影響を受けています。『魔女の宅急便』は、キキが人生の良き手本となるような大人の女性たち、居候先のおソノさんや画家のウルスラなどと出会うことで成長していく物語となっていました。
そうした女性たちは、キキの「あり得るかもしれない未来の姿」として重なるように描かれています。とりわけ、ウルスラ役はキキと同じ高山みなみさんが演じていることで、ウルスラがキキの未来の姿のような印象を特に強くしていました。実際に同じ人物というわけではありませんが、ある種の似た者としてのロールモデルとなる存在としてウルスラは描かれているのです。
『すずめの戸締まり』もまた、すずめが女性たちと旅先で出会っていく物語構成になっています。ネコのダイジンと椅子になってしまった「閉じ師」の草太を追って宮崎県を出たすずめは、同学年の海部千果、シングルマザーの二ノ宮ルミらと出会います。また、育ての親である叔母の岩戸環も重要な存在です。
いずれの女性も働く人として、すずめの前に登場しました。高校生ながら実家の旅館の仕事を手伝う千果、2児の母でありスナックのママとして店を切り盛りするルミ、両親を失ったすずめをひとりで育てた環は漁業協同組合で働いています。とりわけ、物語の前半に出会うことになる千果とルミの場面は、彼女たちの仕事をすずめが手伝うシーンが描かれました。
仕事を通じてすずめは異郷の女性たちと絆を深めていき、旅を助けてもらうのです。ここには仕事を通じた連帯、あるいは他者の生き方を学ぶといった要素が見えます。
『魔女の宅急便』は、タイトルにある通り魔女の少女が宅急便の仕事を通じて成長していく物語ですが、妊婦でパン屋の店先に立つおソノさんや、画家として自分のやりたいことに打ち込むウルスラなど、仕事を通じた出会いが描かれました。そういう働く女性たちの姿に接して、キキは自分に何ができるのかと考え、成長していくという展開になっているのです。
千果やルミとの出会いは旅の通過点での出来事で、すずめは服やバッグ、帽子などのアイテムを彼女たちから譲り受けるなど、背中を押されていきます。『すずめの戸締まり』は東日本大震災を題材にした作品であり、物語後半にはすずめの過去に向き合う展開となるのですが、物語前半に出会う今を懸命に生きるふたりの女性の姿も、すずめの成長に影響を与える重要な存在として描かれていると言えるでしょう。





