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漫画『AKIRA』で描かれた「2019年の東京」の正体とは? 斬新だった「未来」の世界観

『AKIRA』が現代の若者にも支持されるワケ

マンガ『AKIRA』単行本第1巻(講談社)
マンガ『AKIRA』単行本第1巻(講談社)

 マンガ連載をリアルタイムで追いかけていた当時の筆者は、もちろんそんなことは感じませんでした。筆者はアニメ映画『幻魔大戦』(1983年)で、これまでのアニメーションとは一線を画したキャラクターデザインに惹かれて“大友克洋”の名を覚えたこともあって、70年代末からのオカルトブームの最中に放たれたそのクールな超能力描写はもちろん、連載開始と同年に公開されてすでにカルト映画化していた『ブレードランナー』を彷彿とさせる都市の描写、1979年公開の『マッドマックス』からの人気が冷めやらないカーチェイスなど、『AKIRA』の世界のすべてが斬新で同時代的な興奮を誘うものでした。

「『バイオレンスジャック』など崩壊後の世界を描いた作品はありましたが、大崩壊がストーリーの真ん中にあるのはなかったように思います。それを『AKIRA』で実現したかったのです」(大友克洋『AKIRA CLUB』より)

 その言葉通り、物語のほぼ中間地点(全120話中、46~48話)で再び覚醒したアキラによってネオ東京は壊滅し、舞台は廃墟のなかで建国された「大東京帝国」に移りますが、これも映画『マッドマックス2』(1982年公開)や『北斗の拳』(1983年連載開始)によるポスト・アポカリプスブームの最中の展開でした。

 いま振り返ってみれば、若者の間でバブル前夜の好景気による享楽や都会的な喧騒への憧れと、世紀末が近づくなかでの「終末論への畏敬」が同時に高まっていたようにも思います。『AKIRA』は、そんな相反する感情に応えてくれたのでした。

 これだけ昭和の雰囲気を色濃く反映したマンガ『AKIRA』が、いまなお若い人からも支持されるのはなぜでしょうか。

 それは、『AKIRA』の根底に、どこか無鉄砲な若者を肯定する姿勢があるからかもしれません。主人公である金田や鉄雄の性格はその典型ですし、暴走行為もデモや社会活動も、かつては「若気の至り」と言われた行動でした。

 また、時代背景のモチーフとなった「高度成長期」は日本自体が活力をもって国力を回復した時期で、最高の成長率を記録した「いざなぎ景気」は1955年生まれの大友克洋氏の10代前半の時期にも重なります。そういう意味で、『AKIRA』はかつて日本と日本の若者が持っていた若さゆえのエネルギーが封じ込められた作品といえるでしょう。それはきっと今も、無鉄砲な若者たちに再び呼び起こされるのを待っているのです。

(倉田雅弘)

●AKIRAと共に巨大地下迷宮を行く『東京リボーン 第2集』(NHK)

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