マグミクス | manga * anime * game

昭和時代、マンガの“休載”はアウト! 「作者休んで」の風潮はいつ生まれた?

「休載」のネガティブなイメージが変わるきっかけになった漫画家

アニメ化もされた『ストップ!! ひばりくん!』 画像はDVD-BOX デジタルリマスター版(TCエンタテインメント)
アニメ化もされた『ストップ!! ひばりくん!』 画像はDVD-BOX デジタルリマスター版(TCエンタテインメント)

 このようにネガティブなイメージで一大事だった休載の、ひとつのターニングポイントとなったのは江口寿史先生の存在でしょう。

 江口先生は、1981年に連載を開始した『ストップ!! ひばりくん!』の頃から、絵へのこだわりからか執筆に時間がかかるようになり、休載を繰り返すようになります。実際にはご本人も編集側も大変だったと思います。しかし、根がギャグ漫画家ゆえか、マンガのなかで作者の江口先生自身が締め切り間際に白いワニの幻覚を見たり、今度締め切りを守れなかったら坊主頭になると宣言したり、その結果坊主にするなど、虚実皮膜のギャグを展開していきました。

 そして、そのギャグが面白かったため、それまで読者が休載に抱いていたネガティブなイメージが和らぎ、カジュアルに「掲載か休載か」をも楽しめるようになってしまったのです。その一方で、編集側の事情としては、80年代から90年代にかけて、マンガのビジネス構造は雑誌から単行本に軸を移していきます。雑誌単体では赤字でも、そこから派生する単行本の利益で全体的には黒字にする形です。

 こうした構造の変化により、マンガは雑誌で読み捨てるものから、単行本として買う価値のある、読み応えのあるものへとシフトしていきます。そのため寡作でも熱烈なファンを持つ、いわゆるマニア向けの漫画家が台頭し、編集側としても、毎回雑誌に掲載されなくても、単行本で収益があがるのであればと休載が多めの作品、あるいは不定期連載の作品が顕現するようになりました。

 その先駆ともいえる例が萩原一至先生の『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』でしょう。同作は1988年に「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載が開始されましたが、翌年に中断し、1990年に季刊の「週刊少年ジャンプ増刊」で連載再開。その後、1997年に「週刊少年ジャンプ」本誌に異例の月イチ連載として復活しています。2000年代では「週刊少年ジャンプ」の『HUNTER×HUNTER』、「月刊コミック電撃大王」(アスキー・メディアワークス)の『苺ましまろ』や『よつばと!』などがそうでしょうか。

 その後、2010年代になると、マンガ雑誌のWeb進出が本格化していきます。Web媒体は紙媒体と違い、雑誌として決められたページ数がないため、編集側のWebオリジナル作品の休載のハードルは下がりました。同時に、紙媒体もWebオリジナル作品を「代原(代理の原稿)」として掲載することもできるので、こちらもかつてのような休載や減ページへの拒否感は薄れていきます。

 読者側も漫画家自身を描いたエッセイ作品のヒットやSNSでの情報発信で、マンガを描くことがどれだけ過酷な労働であるかを熟知し、徐々に休載のネガティブなイメージは薄れていきました。昨今では、むしろ作品のクオリティや作者の健康維持のため、編集側も読者側も休載を推奨するような傾向さえあるように思います。

 前述の『黒執事』の時もそうでしたが、かつては端的に「病気のため」「取材のため」としていた休載理由を、最近は事前に詳細に示すようになったのも、読者の納得を呼んでいると思います。

 以前、マグミクスで配信した記事「えっ何ですかそれ? 読者が笑った漫画家『休載理由』とは」では、『ゴールデンカムイ』や『ONE PIECE』の休載コメントを紹介しました。『ゴールデンカムイ』の野田サトル先生は、休載の理由を「取材のため」「コミックス校正作業のため」などのほか、「狩猟のため」「出塁のため」「春闘のため」などと「ネタ」にして読者を楽しませました。『ONE PIECE』の尾田栄一郎先生は、手術での休載の際も「せっかくの手術ですので肩にはバズーカもつけて貰う予定です」など、ユーモアあふれるコメントをしています。読者の休載についてのイメージの変遷に、うまくのっとったものだと思います。

 最後にいち読者として何よりマンガに期待しているのは、作者の構想に沿った作品の完結です。特に長寿マンガが増えている昨今、漫画家の健康と意図を最大限に尊重した上で、計画的に休載を利用してくれれば、と思います。

(倉田雅弘)

【画像】え、エルフの時間は長いから… こちらが休載多めな『フリーレン』の美しすぎるイラストです(5枚)

画像ギャラリー

1 2

倉田雅弘関連記事

もっと見る

編集部おすすめ記事

マンガ最新記事

マンガの記事をもっと見る