『海がきこえる』ヒロインは宮崎駿を怒らせた? アニメ版と原作で微妙に異なる「里伽子」の言動
氷室冴子さんの原作小説を、『魔女の宅急便』のキャラクターデザインを手掛けた近藤勝也氏をはじめとする「スタジオジブリ若手制作集団」がアニメ化した『海がきこえる』は、ファンから長く愛され続けています。原作とアニメ版では違いがあるものの、どちらも魅力的な作品となっています。
TV放映の機会が少ないジブリ作品 7月からリバイバル上映

スタジオジブリの人気アニメなのに、テレビで視聴する機会の少ない作品のひとつに『海がきこえる』があります。月刊誌「アニメージュ」(徳間書店)で連載された氷室冴子さんの同名小説を、「スタジオジブリ若手制作集団」がアニメ化したもので、1993年5月5日に日本テレビ系で放映されました。
初放映は祝日の夕方4時からのオンエアながら、関東地区で視聴率17.4%という高視聴率を記録しました。しかし、全国放送は『ゲド戦記』(2006年)との2本立てで、『金曜ロードショー』(日本テレビ系)の枠で2011年に再放送されたきりとなっています。
本編が72分ということもあり、ゴールデンタイムに編成することが難しい『海がきこえる』ですが、高知を舞台にした高校生たちのリアリティーたっぷりな青春ドラマとして、今なお根強い人気を誇っています。
2025年7月4日(金)から3週間限定で全国の劇場でリバイバル上映されるほか、ロケ地となった高知では6月27日(金)から先行上映も行われます。
また、宮崎駿監督を怒らせたことでも有名な『海がきこえる』は、原作小説とアニメ版では結末がかなり違うことでも知られています。
宮崎アニメとは真逆のキャラクター
宮崎監督を怒らせた張本人は、『海がきこえる』のヒロイン・武藤里伽子(むとう・りかこ)です。東京から高知の進学校に高校2年時に転校してきた里伽子は、美人で成績優秀で、しかもテニスの腕前も抜群です。たちまち、生徒たちの注目の的となります。
ところが、里伽子は超わがままな性格でした。主人公である杜崎拓(もりさき・たく)がアルバイトをしてお金を持っていることを知り、修学旅行中に6万円も借りた上に、なかなか返そうとしません。しかも、「あたし、生理の初日が重いの」と10代の男子が聞いたら固まってしまうような言葉を、杜崎に向かって投げかけます。
宮崎監督がそれまで描いてきた『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)のクラリスや『風の谷のナウシカ』(1984年)のナウシカのような純真かつ献身的なヒロイン像とは、里伽子は真逆の存在でした。『海がきこえる』を観た宮崎監督は「物語はかくあるべしを描くべきだ」と否定的だったことが伝えられています。
逆に言えば、里伽子には宮崎アニメのヒロインたちにはない、リアルな女の子としての生々しい魅力がありました。宮崎監督は『海がきこえる』に対抗して、『耳をすませば』(1995年)をプロデュースしたことは、ジブリファンならご存知でしょう。里伽子は転校先の高校だけでなく、スタジオジブリでも大騒動を招いたわけです。