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『海がきこえる』ヒロインは宮崎駿を怒らせた? アニメ版と原作で微妙に異なる「里伽子」の言動

原作ではクラスメイトたちと和解する里伽子

氷室冴子さんによる原作小説『海がきこえる』(徳間書店)
氷室冴子さんによる原作小説『海がきこえる』(徳間書店)

 アニメ『海がきこえる』は放送枠の都合もあって、氷室冴子さんの原作小説の内容をかなり割愛した形となっています。原作では高知でケンカ別れしたままだった杜崎と里伽子は、大学進学後の東京で再会し、東京ドームで野球観戦デートをする仲になります。アニメ版は東京編を思いっきりカットしています。

 物語のクライマックスも大きく異なっています。原作では高知で開かれた高校の同窓会に里伽子は二次会から参加し、文化祭で対立した清水明子らとカラオケでのデュエットを披露します。里伽子が原因で、杜崎は親友の松野と仲違いしていましたが、里伽子はふたりが仲直りするお膳立てもします。

 とんでもない「自己中」に思えた里伽子ですが、両親の離婚に加え、慣れない高知に来たことで精神的に追い詰められた状態で、実は人づきあいがうまくできずに悩んでいたのです。里伽子にとって、杜崎は心を開ける数少ない相手だったようです。大学受験を終え、親元を離れ、里伽子も杜崎も少しだけ大人に成長した姿が、原作ではより鮮明に描かれています。

原作者の告別式で流された『海がきこえる』の映像

 氷室冴子さんは、1980年代から1990年代に数多くの少女小説を発表しています。斉藤由貴さんが主演した青春映画『恋する女たち』(1986年)、富田靖子さんが平安時代のお姫さまをコミカルに演じたテレビドラマ『なんて素敵にジャパネスク』(1986年、日本テレビ系)の原作者としても知られています。

 ライトノベルブームの先駆者として大活躍した氷室冴子さんですが、2008年6月に肺がんで亡くなっています。51歳という若さでした。

 自身の病状を知った氷室さんは、事前に葬儀やお墓などの手配を自分の手で済ませたそうです。小説『海がきこえる』の連載時の挿絵から担当してきたキャクターデザイン&作画監督の近藤勝也氏は「告別式でずっと『海がきこえる』の映像を流してくれていたんです」(文藝別冊『氷室冴子』)と振り返っています。氷室さんにとって、アニメ化された『海がきこえる』はとりわけ大切な作品だったことが分かります。

 アニメ版『海がきこえる』では、高校の同窓会は里伽子不在のまま終わりを迎えます。アニメ版のクライマックスは、ヒロインが不在だからこそより印象に残るものになったのかもしれません。大人になって『海がきこえる』を見直すと、それぞれの胸の中に自分だけの「里伽子」が甦ってくるのではないでしょうか。

(長野辰次)

【画像】「えっ、何でこうなった?」これが『海がきこえる』主人公のビンタシーンです(6枚)

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長野辰次

フリーライター。映画、アニメ、小説、マンガなどのレビューや作家インタビューを中心に、「キネマ旬報」「映画秘宝」などに執筆。現在公開中の『八犬伝』(キノフィルムズ配給)の劇場パンフレットなどにもレビューを寄稿している。

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