朝ドラ『ばけばけ』の世界を40年以上前に描いた『日本の面影』 DVDもない幻のNHKドラマ
主人公たちの心情とリンクしていた「雪女」や「耳なし芳一」
第1話「ニューオリンズから」では、ニューオリンズの幽霊屋敷をハーンは記者として取材します。第2話「神々の首都」では、「文楽」を思わせる人形劇スタイルで、『怪談』の一編「むじな」が描かれました。のっぺらぼうが出てくる、最後のオチも効いている有名なエピソードです。また、セツは地元の出雲地方で噂されていた山の怪異譚「幽霊滝」を語ります。2025年夏から公開中のホラー映画『近畿地方のある場所について』のように、実話かフィクションか分からないゾッとさせる内容です。
本格的な劇中劇として描かれたのは、第3話「夜光るもの」の「雪女」です。雪女役は真行寺君枝さん、若い木こり役は田中健さんでした。人間と異界の者が結ばれるという「異種婚姻譚」は、セツがハーンと結婚した後に語られます。セツもハーンも、それぞれこの怪談噺の主人公たちと自分を重ねていたことが分かります。
最終話「生と死の断章」に登場するのは「耳なし芳一」です。ハーンのよき理解者だった島根県尋常中学校の教頭・西田を演じた小林薫さんが、琵琶法師の芳一に扮しています。少年期に片目の視力を失っていたハーンは、盲目の芳一にシンパシーを感じていたようです。
山田太一氏も魅了された、心優しい幽霊たち
ギリシャ系アイルランド人のハーンは、幼いころに両親が離婚したことから、肉親の愛情を知らずに育っています。苦労して、米国で新聞記者になったという経緯があります。日本に来たハーンは、日本人の親切さに感動し、セツと結婚したことで自分の家族ができたことを大変喜んだそうです。山田太一氏のシナリオを読むと、日本に来たハーンの感情の機微がとてもよく伝わってきます。
欧米の合理主義、個人主義とは異なる、当時の日本の風土や日本人の純朴で慎み深い人柄をハーンは深く愛しました。しかし、文明開化が進んだ日本は、日清戦争、日露戦争を経て、軍事大国となっていきます。ハーンが愛してやまなかった「日本の面影」は、次第に消えていくことになります。
山田太一氏は『日本の面影』で第2回向田邦子賞を受賞します。そして1987年には、中年になったシナリオライターが若くして亡くなった両親と浅草で再会するという、ファンタジー小説『異人たちとの夏』(新潮社)を発表し、翌年には大林宣彦監督によって映画化されました。心優しい幽霊たちを題材にした小説を執筆したのは、小泉八雲の生涯をシナリオ化した影響があったのではないでしょうか。
大好評を博した『日本の面影』ですが、残念なことにDVD化はされておらず、配信もされていない状態です。『ばけばけ』の放送前に、ぜひNHKで再放送してほしいものです。
(長野辰次)
(※「高石あかり」の「高」は、はしごだか)
●ドラマスペシャル『日本の面影』は、公益財団法人 放送番組センターが運営する「放送ライブラリー」(横浜市中区日本大通)で、1話のみ視聴可能です(2025年9月現在)。




