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「金ロー」で『風立ちぬ』放映 夢を共有する宮崎駿と庵野秀明の関係性に注目!

お菓子の「シベリア」に象徴される二郎の欠点

二郎と菜穂子は物語後半で夫婦となるが、結核を患う菜穂子の体は弱っていく
二郎と菜穂子は物語後半で夫婦となるが、結核を患う菜穂子の体は弱っていく

 庵野監督が演じることが決まり、宮崎駿監督は大喜びしましたが、『風立ちぬ』で描かれる二郎は人間的にかなり欠陥のあるキャラクターです。裕福な家に生まれ、優秀な成績で帝国大学を卒業し、大企業の航空機開発部門に就職した二郎は、まさに超エリートです。ですが、残念なことに二郎は、他人の気持ちを思いやるということができません。

 象徴的なのが、二郎が昭和初期に流行していたお菓子「シベリア」を、お腹を空かせている子供たちにあげようとするシーンです。二郎は純粋な善意から買ったばかりの「シベリア」を「これを食べなさい」と初対面の子供たちに手渡そうとするのですが、年長の少女は受け取ることを拒否します。背広を着たエリート階級の男性からの施しは、少女の自尊心を傷つける行為でした。本当の貧しさを知らない二郎は、そのことが理解できないのです。

 二郎は自分の尺度でしか物事を考えることができません。休暇で高原を訪れた二郎は、震災で会ったきりだった菜穂子と再会し、婚約、そして結婚に至ります。菜穂子と一緒に暮らすようになっても、二郎は変わりません。菜穂子は結核を患っていますが、飛行機開発を第一に考える二郎は、菜穂子が寝ている部屋で、遅くまで仕事をし、タバコも吸います。

 菜穂子の健康を考えれば、サナトリムで養生させ、二郎が仕事を休んで看病すべきところでしょう。しかし、菜穂子も自分の体が弱っていく姿を二郎には見せようとしません。

 美しい夢だけを一途に追い続けた二郎、そして自分の美しい姿だけを記憶してもらおうとした菜穂子。最後に名曲「ひこうき雲」が流れることで、とても美しい夫婦の愛情物語だと思ってしまいがちですが、現実世界ではありえない夫婦像です。自身の家族に対し、父親らしいことができなかった宮崎駿監督なりの「贖罪」の意識が感じられます。

本当は恐ろしいスタジオジブリ作品

 美しい夢を具象化してみせるカプローニに二郎は憧れ続け、夢の世界で彼の引退飛行にも立ち会います。カプローニと二郎の関係性は、宮崎駿監督と庵野監督のそれとよく似ています。宮崎駿監督のブレイク作『風の谷のナウシカ』(1984年)の巨神兵復活シーンを若き日の庵野監督が手掛けて以降、2人は同じ夢を共有し合っているかのようです。

 実は庵野監督は『風立ちぬ』のアフレコ参加時、体調が優れませんでした。庵野監督が代表を務めるアニメスタジオ「カラー」が制作した短編アニメ「よい子のれきしアニメ 大きなカブ(株)」を観ると、『エヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(2012年)を完成させた後の庵野監督は、精神的にボロボロの状態だったようです。それでも宮崎駿監督が引退覚悟で作る新作アニメには、庵野監督としては心惹かれるものがあったのでしょう。

 夢を追いかけるという行為は、とてもロマンチックですが、現実世界が見えなくなり、いつ引き返せばいいか分からなくなるという恐怖も伴います。また、自分の人生を棒に振るだけでなく、周囲にまで迷惑を及ぼす可能性があります。まさに命がけです。それでも人間は、夢を追いかけたくなってしまう生き物です。

 宮崎駿監督の『風立ちぬ』は、若い世代に「夢を追いかける覚悟はあるか?」と問いかけている作品ではないでしょうか。『風立ちぬ』は美しく、とても恐ろしいアニメーションです。

(長野辰次)

(C) 2013 Studio Ghibli・NDHDMTK

【画像】『風立ちぬ』堀越二郎が追いかけた飛行機の「夢」(5枚)

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