孤高すぎた特撮ヒーロー『シルバー仮面』 視聴者を驚愕させた11話の「路線変更」とは
特撮ヒーローが戦う相手は、凶悪宇宙人や怪獣たちだけではありません。テレビ放送される彼らは、視聴率という厄介な相手とも闘わなくてはいけなかったのです。実相寺昭雄監督らが手掛けた『シルバー仮面』も、視聴率で苦戦を強いられました。当時の視聴者を驚愕させた第11話では、シルバー仮面の身に何が起きたのでしょうか?
時代を先取りしすぎた変身ヒーロー

日曜日の夜7時から7時30分のTBS系列の放送枠は、かつて「タケダアワー」と呼ばれていました。武田薬品工業(現・アリナミン製薬)が提供する「タケダアワー」では、円谷プロ制作の『ウルトラマン』(1966年~1967年)や『ウルトラセブン』(1967年~1968年)が放映され、大変な人気を集めました。
数々の特撮ヒーローを生み出した「タケダアワー」ですが、宣弘社が制作した『シルバー仮面』(1971年~1972年)は視聴率以上に当時の視聴者に強烈な印象を残した作品でした。侵略宇宙人と戦うシルバー仮面をはじめとする主人公たち5人兄妹が、一般市民からは嫌われているという設定だったのです。特撮ドラマ=子供向け番組という概念を打ち破る、超シリアスなストーリーでした。
メイン監督を務めたのは実相寺昭雄監督。『ウルトラマン』の第23話「故郷は地球」や、『ウルトラセブン』の第8話「狙われた街」などを手掛けた鬼才演出家です。実相寺監督が撮った『シルバー仮面』の第1話「ふるさとは地球」が放映されたのは、1971年11月28日でした。放送開始から50年の機会に、時代を先取りし過ぎた孤高のヒーロー『シルバー仮面』を振り返ります。
実相寺監督のこだわりが強く出た第1話と第2話
円谷プロの創業者・円谷英二氏は1969年に体調を崩し、1970年に死去。赤字経営が続いていた円谷プロでは経営の合理化が進められ、多くの社員スタッフがリストラされました。TBSから出向していた実相寺監督も、このときに円谷プロを離れています。
そんな時期に宣弘社が制作した特撮ドラマ『シルバー仮面』には、実相寺監督のほか、『ウルトラセブン』の美術デザインを務めた池谷仙克氏、脚本家の佐々木守氏ら、そうそうたるスタッフが集まりました。
物語の主人公となるのは、春日兄妹です。光子ロケットを開発した父・春日博士はチグリス星人に殺害され、体のどこかにロケットエンジンの設計図が隠された5人兄妹の逃亡生活が始まります。次男・光二(柴俊夫)は等身大のヒーロー・シルバー仮面に変身して戦うのですが、実相寺監督ならではの極端なクローズアップや逆光を多用した独特な映像の印象が強く、ヒーローものらしい爽快感は第1話からは感じられません。
第2話「地球人は宇宙の敵」では、宇宙人との戦いに巻き込まれることを嫌う一般市民から、春日兄妹は迫害されることになります。侵略宇宙人と命がけで戦っているにもかかわらず、平和に暮らす人びとからは鼻つまみ者扱いされてしまうという孤高すぎるヒーローでした。
人気アニメ『機動戦士ガンダム』(テレビ朝日系)で知られる富野由悠季監督も『無敵超人ザンボット3』(テレビ朝日系)で、一般市民から嫌われる主人公一家を描いています。1977年に放映された『ザンボット3』も先鋭的な作品でしたが、『シルバー仮面』はその6年前に、しかも日曜日の夜7時というゴールデンタイムで非常にヘビーなテーマに挑んでいたのです。