『大怪獣のあとしまつ』だけじゃない? 観客と作り手の「すれ違い」がスゴかったSF映画たち
キャストは熱演しているのに、内容についていけなかった。予告編で受けた印象と本編が違っていた。特撮場面が浮いていた……。そんな理由から、「トホホ映画」や「迷作」と呼ばれる作品が生まれてきました。ネット上で騒がれた『大怪獣のあとしまつ』をはじめ、日本映画界で伝説となっているファンタジー系の作品を紹介します。
観客の期待とのギャップが「迷作」を生む?

「誰も見たことのない空想特撮エンターテイメント」
東映と松竹が初めて共同製作・配給した映画『大怪獣のあとしまつ』は、2022年2月4日に劇場公開が始まるやいなや、ネット上には辛辣な感想コメントが吹き荒れる騒ぎとなりました。
死んでしまった巨大生物の後始末は、誰がどのようにするのか? 『大怪獣のあとしまつ』は、庵野秀明監督の大ヒット映画『シン・ゴジラ』(2016年)の後日談を思わせる設定です。『シン・ゴジラ』のような本格的なSF映画を期待して劇場に足を運んだ人たちは、閣僚たちが果てしなくギャグを交わし続けるコメディ展開に、唖然としてしまったようです。
冒頭の言葉は『大怪獣のあとしまつ』の予告編で謳(うた)われたコピーですが、確かに今まで誰も見たことのない奇妙な世界がスクリーンに映し出されていました。
深夜ドラマ『時効警察』(テレビ朝日系)などのコメディ作品で知られる三木聡監督のオリジナル脚本&監督作であることを知っていれば、そこまで違和感を覚えることもなかったでしょう。でも、予告編や事前の宣伝ではコメディであることや社会風刺を込めた作品であることは伏せられていました。シリアスな内容をイメージしていた観客の期待と配給会社の宣伝方針とのギャップが、ネット上を騒がせ、「迷作」と呼ばれる要因となったようです。
過去に酷評された日本映画を振り返ってみると、観客の期待と製作サイドの思惑とが一致せず、すれ違いが生じてしまったケースが多いように感じます。今回は、観客を悶絶させた伝説の日本映画を3本紹介します。どれも特撮シーンのあるファンタジックな作品です。
特撮とドラマが噛み合わなかった『デビルマン』

永井豪氏のカルト的人気を誇るマンガを東映が実写化した『デビルマン』(2004年)は、公開から18年が経った今も、強烈なインパクトを観客に残したままです。人類と先住人類・デーモン族との戦いを描いた壮大なスケールの原作を、上映時間116分に収めるのは容易ではありませんでした。
仲村トオルさん、中山美穂さんらが映画デビューした『ビー・バップ・ハイスクール』(1985年)で知られる那須博之監督は、学園青春ものとして『デビルマン』を撮ろうとしたようです。優等生、不良、いじめられっ子……。そんなスクールカーストの崩壊と世界の滅亡とがうまくリンクして描かれれば、青春ドラマとして弾けたものになっていたかもしれません。でも、残念ながらドラマパートと特撮パートは最後まで噛み合わないまま、物語は終わってしまいます。
実写版『デビルマン』で印象に残るのは、原作ではサブキャラ扱いだったミーコ(渋谷飛鳥)とススム(染谷将太)です。人間同士が殺し合う残酷な終末世界を、ミーコとススムは手を取り合ってサバイバルします。那須監督は『デビルマン』が公開された翌年に亡くなっていますが、若い俳優たちの成長に期待を寄せていたのではないでしょうか。